弁護士ドットコムというサイトの法律相談コーナーで、弁護士が執行猶予に関する質問の回答を間違えているということが話題になっています。
話題のページはこちら、消されちゃうかもしれません。
執行猶予とは、簡単にいえば、懲役刑などが判決で言い渡されても執行猶予期間中おとなしくしておけばお咎めなしという制度です。執行猶予といえば、司法試験の短答式試験(マーク試験)でも頻出で、一度勉強すれば簡単に点がとれるようになるボーナス分野です。ですので、司法試験に合格した弁護士が執行猶予制度について勉強していないということはありえません。でも、しばらく触れていないと忘れてしまうのはしょうがないですね。
執行猶予がつくかどうかは被疑者・被告人にとって最も関心があることなので、ここを間違えると弁護士と被疑者・被告人の信頼関係がなくなってしまうかもしれません。そこで、このたび執行猶予がつけられる場合をちゃんとまとめておきました。なおあくまで「付けられる場合」であって、以下の条件をみたしていても、執行猶予が付くかどうかは裁判所しだいです。
執行猶予が付けられる場合
条件 | 根拠条文 | |
---|---|---|
1 | 過去に禁錮以上の前科(執行猶予期間中も含む)がない者で、今回の判決が3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金である場合 | 刑法25条1項1号 |
2 | 過去に禁錮以上の実刑の前科があるが、出所(服役)から5年を経過しており、今回の判決が3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金である場合 | 刑法25条1項2号 |
3 | 保護観察がついていない執行猶予期間中の者で、今回の判決が1年以下の懲役又は禁錮である場合 | 刑法25条2項 |
1の場合は、要するにせいぜい罰金程度の前科しかない人ということです。懲役刑の前科がある人でも執行猶予がついていて、執行猶予期間が経過している場合は、刑の言い渡しの効力がなくなるので1の場合にあたります。現在執行猶予期間中の人は1に該当することはなく、3の再度の執行猶予の問題になります。
2の場合は、要するに過去に禁錮以上の実刑の前科がある人でも、出所(服役)後5年が過ぎている場合です。1の場合の条件を少し緩和するものです。
3の場合は、いわゆる「再度の執行猶予」と呼ばれるものです。上記条件の他に「情状に特に酌量すべきものがあるとき」という条件が付きますので滅多なことでは付きません。
今度は逆からみて執行猶予が付けられない場合をまとめてみましょう。こちらの方がわかりやすいかもしれません。
執行猶予が付けられない場合
- 今回の刑が3年を超える懲役もしくは禁錮、50万円を超える罰金の場合
- 過去に禁錮以上の実刑の前科があり出所(服役)後5年以内である場合
- 現在執行猶予期間中の身で保護観察がついている場合
- 現在執行猶予期間中の身で保護観察はついていないが、今回の刑が1年を超える懲役または禁錮の場合
とりあえず、懲役や禁錮の刑が3年を超える場合は執行猶予をつけることはできません。また、刑務所を出てから5年以内に今回の判決を受ける場合も執行猶予はつけられません。
執行猶予期間中の身の場合は、保護観察がついている場合は執行猶予をつけることはできません。保護観察がついていない場合でも、再度の執行猶予の条件をみたさないと執行猶予はつけられませんので、執行猶予がつくのは稀でしょう。
なお、50万円以下の罰金については条文上執行猶予をつけることが可能ですが、実際に執行猶予がつくことはほとんどありません。
以上は正確な条文の文言等よりも、わかりやすさを重視しているので、より正確な情報は条文を確認してください。滅多にない免除などの場合はあえて省略してあります。
参照すべき条文
刑法25条
1 次に掲げる者が三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金の言渡しを受けたときは、情状により、裁判が確定した日から一年以上五年以下の期間、その執行を猶予することができる。
① 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
② 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
2 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあってもその執行を猶予された者が一年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受け、情状に特に酌量すべきものがあるときも、前項と同様とする。ただし、次条第一項の規定により保護観察に付せられ、その期間内に更に罪を犯した者については、この限りでない。
刑法27条
刑の執行猶予の言渡しを取り消されることなく猶予の期間を経過したときは、刑の言渡しは、効力を失う。