法廷日記

浦部孝法の日記です。時事問題、法律問題に関して適当に書いています。

仮処分・訴訟手続でネットの書き込み者を特定するまでの流れ・注意点

ネットの名誉毀損やプライバシー侵害などに対する損害賠償請求は昔に比べ普通になってきました。ネットに書き込みした相手(発信者)を特定する方法が確立してきたことが一つの要因でしょう。そこで、今回は発信者を特定するのによく用いられる仮処分手続・訴訟についてその流れや注意点をみていきたいと思います。

発信者の特定は書き込みの削除に比べハードルがぐんと上がります。そのため、ネットの誹謗中傷への対処は削除だけにして発信者の特定はあきらめてしまうということも多々あります。発信者の特定のハードルを上げている要素は次の点です。

  1. 発信者のプライバシーの問題
  2. 2段階の手続きを踏む必要があること
  3. 迅速性が要求されること
  4. 削除の仮処分と管轄が違うこと

1.発信者のプライバシーの問題

削除依頼には比較的柔軟に応じてくれるサイトでも、発信者のIP開示には応じてくれなかったりします。これは、発信者の通信の秘密やプライバシーの問題があるためです。特に後述するアクセスプロバイダはまず発信者情報を任意に開示してくれません。

2.2段階の手続きを踏む必要があること

発信者情報の開示には2段階の手続を踏む必要があります。なぜかというと、サイト管理者が持っているのは発信者のIPアドレスのみで、発信者の氏名や住所はわからないからです。発信者の氏名や住所の情報を持っているのは、そのIPアドレスが割り振られたアクセスプロバイダです。そのため、サイト管理者からIPアドレスを入手したら次はアクセスプロバイダに発信者情報の開示を求めなければなりません。

このように2段階の手続を踏まなければいけないのが、単なる削除の手続と大きく異なる点です。

サイト管理者へのIPアドレス開示には仮処分手続、アクセスプロバイダへの発信者情報の開示には訴訟手続を原則使うことになります。

3.迅速性が要求されること

発信者情報開示では迅速性が要求されます。というのもアクセスプロバイダが保有しているアクセスログはせいぜい3~6ヶ月程度しか保存されていないからです。そのため、問題の書き込みを見つけたのが書き込みから半年以上経過している場合だと、発信者の特定は困難になってしまいます。

時間が限られているので、サイト管理者に対するIPアドレスの開示請求ものんびり任意交渉ではやってられません。通常、ただちに仮処分手続を起こすことになります。IPアドレスを入手してアクセスプロバイダを特定したら、今度はアクセスプロバイダにログの保存を要請したり、場合によってはログ保存の仮処分を起こすことになります。アクセスプロバイダに対する開示手続は迅速な仮処分手続ではなく時間のかかる訴訟になりますので、訴訟が終わるまでの間にログを消されないようにするのが必須になるわけです。

4.削除の仮処分と管轄が違うこと

発信者情報開示の仮処分・訴訟で注意しなければならないのは裁判所の管轄です。削除の仮処分であれば、不法行為地となる被害者の住所地を管轄する裁判所で起こすことができます。札幌に住んでいる人が被害を受けた場合は札幌地裁で起こすことができるわけです。

一方発信者情報開示の仮処分・訴訟の管轄は原則として、サイト管理者・アクセスプロバイダの所在地になります。そのため、サイト管理会社やアクセスプロバイダが東京にある場合は、被害者が札幌に住んでいても東京地裁で手続を行わなければなりません。そのため遠方に住んでいる人は弁護士に払う日当や交通費がかさんでしまいます。

それでもあきらめるのはまだ早い

以上みてきたとおり、書き込みした人間の特定というのは結構ハードルが高いです。面倒だからやめておこうと思った人もいるかもしれません。それでも、ログが保存されていれば、発信者を特定できる可能性はそれなりに高いです。また、発信者の特定にかかった費用を加害者に請求できるとした裁判例も出ています。

ですので、どうしても加害者が許せない場合はあきらめずにチャレンジしてみるのもいいでしょう。

関連記事

インターネットの誹謗中傷の削除の仕方 - 法廷日記