被害弁償・示談について加害者側から書かれたものは多いですが、被害者側から書かれたものは少ないのでちょっと書いてみようと思います。自動車運転過失致傷みたいな交通事故はまた別なので、今回はそれは除きます。
加害者側から連絡がくるまでの流れ
逮捕などの身柄拘束をされた事件の多くには、私選または国選弁護人が付きます。
被害者のいる事件の場合、弁護人がまず最初に考えることは示談・被害弁償です。そのため弁護人は、金銭支払の見込みが取れ次第、被害者に連絡を取ることを試みます。被害者の連絡先がわかっていれば直接、わからない場合はまずは警察や検事に被害者の連絡先を尋ねます。後者の場合、検事などから「弁護士が連絡先を聞きたいと言っているが教えてよいか。」などと連絡があるでしょう。示談の余地がなく、被害弁償不要で厳罰を求める場合はここでシャットダウンしてしまえばいいです。
弁護人からの連絡は最初は手紙で来ることが多いですが、急ぎの場合はいきなり電話からくる場合もあるでしょう。知らない電話番号からかかってきたら弁護人かもしれません。
弁護人の目標
交渉にあたっては相手の獲得目標を知っておくことが重要です。示談交渉にあたって弁護人が目指しているのは次のものです。
①示談+減刑嘆願書(または告訴取消・被害届取下げ等)
②示談+宥恕文言
③示談
④被害弁償
数字が若いほど、加害者の量刑に有利になります。特に刑事裁判にするのに告訴が必要な親告罪では告訴の取消しが最大の獲得目標になります。被害者側からみれば最も駆け引きの材料になる部分です。
②の宥恕文言というのは、示談書に「加害者を許すこととする。」という内容の条項を入れるものです。昔は「宥恕する。」という言葉が使われていましたが、意味が分かる人が少ないので最近は普通に「許すこととする。」という文言を使うことが多いです。これを入れることによって加害者の情状が有利になります。
なお、ここでいう示談とは、今回の事件についてお互いに債権債務はないよ(加害者はこれ以上損害賠償義務を負わないよ)という合意をする意味です。
交渉に有利な期間
刑事事件の示談・被害弁償は時期によって加害者側のモチベーションは大きく異なります。時期によって態度が違うなんて不誠実でないかと思う人もいるでしょうが、もともと相手は犯罪を犯すような人だということを忘れてはいけません。
①逮捕~起訴まで
②起訴後~判決まで
③判決確定後
①の逮捕から起訴までの間が一番被害者側にとって有利な内容で示談ができる時期です。起訴猶予になったり告訴取消しになれば、加害者に前科がつくことはなくなるので、加害者側とすればもっとも金を出す意味がある時期になります。ただし、逮捕から起訴までは最大でも23日間しかありません。ここでグダグダしてしまうと有利な時期を逃してしまいます。
起訴されてしまった場合は、示談の有無で執行猶予が付くかどうかが決まるような事件だったり、実刑は免れず刑期をいくら減らすことができるかがポイントとなるような事件では、まだ加害者側の示談へのモチベーションは高いです。逆に、執行猶予が付くことがほぼ確定しているような事件では低くなります。最初から示談の意向があるのであれば、軽微な事件ほど①の起訴前の時期に示談を目指すべきでしょう。略式手続で罰金刑になってしまった場合は、被害者に払うお金が無くなってしまう場合もあります。
③の判決確定後は、もう弁護人は付いていません。後は任意で弁護士などをつけない限り本人同士でやり取りをしなければならなくなります。もともと相手は犯罪を犯すような人間です。まともな交渉は難しいかもしれません。なるべくなら加害者に弁護人がついている間に示談交渉を済ませたいです。
無茶な要求をしてはいけない
たまにですが、被害に乗じて一儲けしようとする被害者もいます。起訴猶予や告訴取消しがかかっているような場合には、相場より多少高い額での示談も十分ありえますが、法外に高い額を掲示された場合は加害者側の弁護人も毅然と対応してきます。また、対応注意の被害者認定をされ、弁護人も慎重にことを進めるようになってしまいます。
被害者の要求が過大で示談ができなかった場合、弁護人は加害者は誠実に示談対応したが被害者の要求が過大で示談できなかったという印象を裁判所に与えるような示談状況報告書を作成する場合があります。示談ができないなら、できないなりに裁判所や依頼者(加害者)への言い訳を弁護人は欲しています。被害者の過大な要求というのはやる気の低い弁護人にとっては良い言い訳になってしまうわけです。
加害者側の弁護人と交渉する際は、常にやり取りの記録を取られていることに留意しておくべきでしょう。
示談の相場がわからないときは、弁護士に相談するなどしておいた方がよいでしょう。相談だけなら無料か5000円程度で済みます。
小括
・逮捕されてから起訴されるまでが勝負時
・裁判が終わった後に加害者が任意で被害弁償することは期待できない
・無茶な要求は逆効果
・加害者を厳罰に処して欲しい場合は弁護人からの連絡は無視でOK
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