法廷日記

浦部孝法の日記です。時事問題、法律問題に関して適当に書いています。

覚せい剤使用の量刑はなぜ固定的なのか。

元巨人の清原和博氏の覚せい剤使用が話題だ。覚せい剤の使用は覚せい剤取締法により規制されている。違反した場合の法定刑は懲役10年以下である。

ところで、覚せい剤取締法違反で有罪となる人数は年間約1万人である。

平成27年版 犯罪白書 第2編/第3章/第2節/1

この中には営利犯も含まれているが、ほとんどは使用である。

覚せい剤の末端使用者が覚せい剤使用で起訴された場合、前科がなければほぼ間違いなく量刑は懲役1年6か月執行猶予3年となる。これは判例上ほぼ固定的で、覚せい剤使用事件を担当した弁護人は自信をもって「量刑の見込みは?」という依頼者からの問いに「懲役1年6か月、執行猶予3年」と答えることができる。これは、法定刑がほぼ同じ窃盗罪や詐欺罪などの量刑にはブレがあるのとは異なる特徴である。

被害者のいない覚せい剤事件では、量刑に大きな影響を与える被害弁償や示談をする余地がない。また、再犯の可能性を下げる要素は治療や更生環境の整備ということになるが、覚せい剤事件ではほとんどの被告人は身柄拘束を受けており再犯防止のためにやれることは限られている。そのため、使用の事実以外の量刑に関する要素がどれも似たりよったりで量刑は固定的になる。

なお、覚せい剤使用事件が起訴される場合、立証の都合上、起訴されるのは最後に使用した1回の使用行為のみとされるのが通例である。そのため、使用の回数という本来量刑の決め手になりそうな要素が、決定的な要素とできないという問題もある(起訴された使用行為以外は所詮審判対象外の余罪に過ぎず、量刑の中で大きく考慮することはできない。)。