ブロガーの犯しやすい法律といったらなんといっても著作権法だと思いますが、刑法の名誉毀損罪もなかなか侮れません。名誉毀損は、著作権法違反よりも被害感情が高まりやすい傾向があるので、告訴までの心理的ハードルも低いです。実際に、名誉毀損罪での告訴依頼はそこそこあります。
名誉毀損は比較的曖昧な構成要件に対し、成立が認められやすいのも特徴です。行為態様や被害感情によっては初犯でも起訴されることはありうるので、いったん刑事告訴を受けるとなかなか厄介な犯罪です。
そこで、不用意な記事で経歴を汚してしまわないよう、名誉毀損罪成立のチェックポイントを確認していこうと思います。なお、民法上の不法行為となる名誉毀損の成立要件は刑法上の名誉毀損罪の成立要件と微妙に違います。今回は、とりあえず刑事編ということで刑法上の名誉毀損罪についてのみ確認しましょう。
名誉毀損罪の成立条件
名誉毀損罪が成立するには次の構成要件をみたす必要があります。
- 公然と、
- 事実を摘示し、
- 人の名誉を毀損すること、
1.公然性の要件
名誉毀損罪が成立するには、公然性の要件をみたす必要があります。公然性とは摘示された事実を不特定または多数人が認識しうる状態におくことをいいます。ブログは通常誰でも見られるものですので、ブログ記事が公然性の要件をみたすことは明白です。
公開範囲がメンバー限定で特定・少数といえる場合でも、その特定・少数者から事実が広まる可能性がある場合には公然性が認められてしまいます。
2.事実の摘示
名誉毀損罪が成立するには、具体的な事実の摘示がなければなりません。具体的な事実の摘示がない場合には、名誉毀損罪は成立せず、より軽い侮辱罪が成立しうるにすぎません。
例えば、「A議員はB社から賄賂をもらっている」という表現は、具体的な事実の摘示があるので名誉毀損となりえますが、「A議員はアホな政治家だ」という表現は具体的な事実の摘示がないので侮辱罪が成立しうるにすぎません。
3.人の名誉を毀損すること
名誉毀損罪の対象はいわゆる人間に限られず、会社などの法人、団体なども含まれます。つまり、特定の会社をディスっても会社に対する名誉毀損罪が成立しうることになります。
名誉を毀損するとは、人の社会的評価を低下させることをいいます。これがなかなかに抽象的で厄介な要件ではあるのですが、人の社会的評価が低下したかどうかは一般の読者の普通の注意と読み方を基準とします。まあ常識的に判断しようということですね。
違法性がなくなる場合
以上が名誉毀損罪の成立要件なのですが、一定の場合には名誉毀損行為の違法性が認められないとして名誉毀損罪が成立しないことがあります。例えば、犯罪の実名報道などは被疑者となった人物の名誉を毀損することは明らかですが、違法性がないから立件されないわけですね。名誉毀損行為の違法性が認められなくなる条件は次の3つの条件を全てをみたすことです。違法性阻却事由などと呼ばれるものです。
- 事実の公共性
- 目的の公益性
- 真実性
1.事実の公共性
摘示された名誉毀損的事実が公共の利害に関することが必要です。例えば、政治家の汚職に関することや、著名な宗教団体のトップの女性関係なんかには公共性が認められます。逆に、有名人でもない一個人のプライベートな事項なんかには公共性は認められません。
2.目的の公益性
事実を摘示した主たる動機が公益目的でないとなりません。比較的緩やかに認められる要件ですが、極端に侮辱的な表現を使っていたり、読者の好奇心を満足させることだけが目的の場合は否定されてしまう場合があります。
3.真実性
名誉毀損行為に違法性がないというためには摘示された事実が真実であることを表現者が証明しなければなりません。公共性、公益性の要件は割と広く認められる傾向がありますが、この真実性の要件はかなり厳格に見られてしまいます。
仮に裁判で真実であることの証明ができなかったとしても、証明可能な程度に確実な資料・根拠をもって真実と勘違いした場合はセーフとなります。
なお、「こういう噂がある」という表現をした場合は、噂の存在が真実性の対象になるのではなく、噂の内容そのものが真実であることを立証しなければならないとするのが判例です。多少法律を意識しているブロガーでもこのあたりは勘違いしがちなので注意が必要です。
以上、名誉毀損罪のチェックポイントをみてきました。特定人物やの批判系のブログ記事を書く場合や真偽不明の噂を記事にする場合は、名誉毀損にならないか十分にチェックしておきましょう。