法廷日記

浦部孝法の日記です。時事問題、法律問題に関して適当に書いています。

キムチを食べたから覚せい剤反応が出たという弁解

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尿検査で覚せい剤反応が出た場合でも、覚せい剤を故意に使用していないのであれば覚せい剤使用の罪は成立しません。そのため尿の鑑定結果などが争えない場合で無罪を狙うには、知らない間に摂取してしまったとか他人に無理やり打たれたなどといった弁解をすることになります。こういった弁解の中には誰が聞いても不合理な弁解も時々出てきます。弁護人は被告人の弁解がどんなに不合理でもそれに付き合ってあげなければなりません。

覚せい剤使用の被告人の不合理弁解の中でも、昭和の終わり頃一世を風靡したのが、キムチを食べたせいだという弁解です。

当時キムチ弁解が多用されるようになったのは、「医学のあゆみ」という医学総合雑誌でキムチを食べた被験者の尿から覚せい剤が検出されたという実験結果の発表がなされたからだと言われています。

もちろんこのような弁解が通るわけもなく、裁判ではことごとくキムチ弁解は排斥されました。裁判例では、仮にこの実験結果が正しかったとしても、尿検査で反応するような量の覚せい剤が生体内で生成されることはありえないと判断されています。

東京高判昭和59年8月29日

なお、被告人は、当審公判廷において、当時かなりの量のキムチを食べていた旨供述し、弁護人は、その供述をふまえて、被告人の尿から顕出された覚せい剤は被告人のこのキムチ摂取の結果である疑いがあると主張するが、たしかに当審証人○△○の証言によれば、東大石山教授の実験結果によつて、ある種のキムチを大量に摂取した場合、その者の尿中から覚せい剤が顕出されることがあることが判明していることは所論指摘のとおりであるが、同証人の証言によれば、右実験により顕出された覚せい剤は尿一〇〇グラム中にわずか〇・二ないし〇・三マイクログラムというきわめて微量なものにすぎず、他方前記呈色検査により覚せい剤反応が出るためには、検体中に少なくとも五マイクログラムの覚せい剤が存在しなくてはならないことが認められるのであるから、仮に被告人が本件当時大量のキムチを摂取していたとしても、それによつて右呈色検査により顕出されるほどの覚せい剤が被告人の体内に生成されることはありえなかつたことは明らかであり、右主張は採用できない。