法廷日記

浦部孝法の日記です。時事問題、法律問題に関して適当に書いています。

残業代請求するよりも職探しした方がよい件

最近「残業代」というものがホットなキーワードになっています。実際、残業代請求の事件っていうのは結構な数あって、残業代請求を積極的に宣伝している弁護士も結構います。

でも、残業代を請求することが果たして本当に本人のためになるかは疑問が生じるところです。

残業代請求は負担が大きい

残業代請求する法的手続としては、労働審判と訴訟があります。

労働審判は、3回以内という比較的短期間で終わることがメリットの手続ですが、本人が出頭することが前提なので、審判期日に出頭する負担が生じます。もちろん平日の昼間に開催されるので、既に職をもっている場合は休んで出頭しなければなりません。しかも、当日は使用者側の責任者も出頭しているので、彼らと同じテーブルにつかねばなりません。これは残業代を請求する側にとっては、メンタル的にかなり負担です。

訴訟の場合は、本人尋問があるとき以外は弁護士に出廷をまかせればいいので、出頭の負担は少ないですが、解決までに1年近くかかる場合もあります。

いずれの手続を使うにせよ、本人だけで戦いを挑むのは難しいので弁護士に依頼しなければなりません。そうすると、弁護士を探す手間、弁護士と打ち合わせをする手間がそれぞれかかり、これらの時間は決して短くありません。その時間働いていればそこそこの収入になるでしょう。

また、弁護士費用は最低でも着手金10万円、それに加え実費や成功報酬などを支払わなければなりません。もちろん、裁判に負けた場合でも着手金は返ってきません。

請求できる残業代の額は大したことない

残業代の時効は2年なので、原則として過去にさかのぼって2年分しか請求できません。しかも残業時間の立証は残業代を請求する側がしなければならず、立証に失敗した部分は請求が認められません。

医者などの時給が高い職種の残業代請求では、請求金額が1000万円を超えることもありますが、そうでない一般の仕事であれば、請求できる残業代はせいぜい100~300万円程度です。300万円程度までいけばかなりいい方で、実際は100万円程度で解決することがほとんどでしょう。そして、ここから弁護士にいくらか支払わなければならないので、あまり手元に残るお金はありません。

付加金なんてほとんどとれない

残業代請求をする際は、付加金といって、最大で残業代と同じ額の罰金のようなものを請求することができます。残業代請求を得意としている弁護士も、付加金が取れると宣伝していることも多いでしょう。

しかし、この付加金まで取れるケースというのはそんなに多くありません。

まず、労働審判で解決する場合は、付加金はとれないとするのが、現在の裁判所の見解です。そのため、付加金を取るには訴訟を提起しなければなりません。

訴訟で残業代請求が認められる場合でも、付加金の請求まで認められるとは限りません。付加金は、使用者側の悪質性を考慮して、裁判所が付加金の有無や範囲を決めるからです。しかも、使用者側は、訴訟で負けそうだなと思えば、残業代を供託するなどして、付加金の支払い命令をつぶしにかかります。

そのため、実際に付加金の支払いまで命じられるケースというのは少ないのが現状です。

転職にも不利になるかもしれないという恐怖

残業代を請求する時点で、既に会社を辞めているか、辞める決意をしていることが多いと思います。そのため、転職活動をしなければならないことになりますが、紛争を抱えながら転職活動をするのは時間的にも精神的にもかなり負担になります。

また、狭い業界に属している場合、紛争を抱えていることが転職活動先にも知れ渡っているかもしれません。少なくとも、転職活動先の会社が自分の紛争のことを知っているんじゃないかという恐怖と戦いながら転職活動をしなければなりません。

いいか悪いかは別として、わざわざ前の会社ともめている人を採用したいと思う企業があるかどうか考えれば、このリスクは明らかでしょう。世間は戦う人に対して冷たいものです。

それでもあえて残業代請求をする理由があるとしたら

その人の人生を長い目で見てみれば、残業代を請求することに時間や労力をかけるよりは、さっさと別の仕事を探した方が、経済的にも精神的にもいいことが多いです。

それでもあえて残業代の請求を求める理由があるとしたら、会社への報復というものがあるといえそうです。

労働者側から労働審判や訴訟を起こされたら、使用者側としては弁護士を付けざるを得ません。これで使用者側は弁護士費用を負担しなければならないハメになります。訴訟対応にも人員や時間を割かれます。また、残業代の請求が認められれば、残業代も支払わなければならなくなり、これらは使用者側にとってはそこそこ痛い出費になります。

また、裁判で判決が下された場合は、判決文が公開されて、会社のイメージが悪くなるということもありますので、これは会社としてはかなり痛いダメージになります。

自分を苦しめた会社に一泡吹かせてやるという意味では、残業代請求にも大きな意味があるのかもしれません。

僕は基本的にはおすすめしませんけどね。