労使間の法的紛争の中で、法的に解決することが最も難しい類型の事件がパワハラ案件である。一方で、労働者側の権利意識の高まりもあって、パワハラの認知件数はうなぎのぼりだ。
労基署等に設置されている総合労働相談コーナーによせられた相談のうち圧倒的な数をほこるのもいじめ・嫌がらせ問題である。パワハラの相談件数はここ10年で2倍以上に急増している。
では、なぜこれだけ問題化しているのにパワハラ問題の解決はなされていないのか。そこにはパワハラ問題の構造的な問題がある。
パワハラ問題の法的な解決が難しい原因は次のとおりだ。
- 被害金額が小さい
- 立証が難しい
- 当事者の気質・性格の問題
1.被害金額が小さい
パワハラ問題の法的な解決が難しい原因の一つに被害金額の低さが挙げられる。
パワハラを受けた被害者は加害者や会社に対して損害賠償を請求することができる。しかし、その賠償額は、被害者の主張が全面的に認められた場合でもせいぜい5~10万円程度のことがほとんどである。
殴られたり、刺されたりといったしゃぶしゃぶ温野菜事件のような強烈なレベルのものであれば賠償額も上がるが、そんなものは実際にはマレで、ほとんどのパワハラ事件の被害金額は低額にとどまる。
被害金額が低額であると、裁判などの法的手続をとっても賠償金では弁護士費用もまかなえないというケースがほとんどである。そのため、裁判などの手段をとることができず法的な解決が困難となっている。
2.立証が難しい
パワハラは、口頭であったり、長期にわたる小さな行為の積み重ねであったりするので、明確な証拠がないことが多い。また、被害者は基本的には会社と争うことになるので、同僚などの証言を得ることも難しい。
ひとたび法的手続の土台にのせた場合は、パワハラの被害を立証しなければならないのは被害者側であり、結局証拠がなく泣き寝入りというケースが多い。手帳などへのメモが推奨されることもあるが、結局メモも録音や写真等の客観的な証拠が全くない状況では、その証明力は極めて弱いものである。
また、そもそも本人がパワハラだと思っていても、法的には少し厳しめの指導の範囲ということで、違法性が認められないこともある。
3.当事者の気質・性格の問題
パワハラについては会社側も加害者に手を焼いていることが多い。厳しい日本の解雇規制の下では、加害者のパワハラを会社が認知していても、加害者を解雇するという手段をとることはまずできない。せいぜい、指導や異動で対応することしかできないのであるが、パワハラの加害者というのは指導しても聞かないような連中であることが多い。
また、被害者側の気質・性格も問題の解決に影響してくることは否めない。パワハラの被害者は、被害者であり気の毒ではあるもののコミュニケーション能力に難があることが多い。
パワハラ問題の解決にあたっては、被害者側も相談機関や会社と十分にコミュニケーションをとって解決していく必要があるが、これがうまくいかないケースも多い。被害者側についていた相談機関なども、この被害者とはコミュニケーションが上手くいかずこれ以上関わるとこちらに責任が押し付けられかねないと判断したら離れて行ってしまう。たらい回しに合うようなケースはこのケースが多い。
パワハラ問題を解決していくのに必要なこと
パワハラ問題を解決していくためには、まず裁判で認められる賠償額を高額化していく必要がある。今の解決水準は安すぎる。
また、解雇規制が厳しすぎるのもパワハラの温床であろう。パワハラ加害者の解雇をより容易にする必要がある。