法廷日記

浦部孝法の日記です。時事問題、法律問題に関して適当に書いています。

女性専用車両合憲判決と違憲判決を勝ち取る方法

女性専用車両が国内に導入されて早約15年、未だ違憲判決はでないのかと調べてみても、下級審すらも判例データベースではヒットしない。地裁レベルのものではあるが、ネットにあがっていたものがあるので検討してみよう。

判決文の全文(7ページ)ですけど・・・何か? ( 政党、団体 ) - ドクター差別と選ばれし者たち - Yahoo!ブログ

事案の概要(大阪地判平成15年9月29日)

 本件は、被告である大阪市が経営する地下鉄で女性専用車両を導入したところ、上記制度においては、公共交通機関において女子についてのみ特権的便益を与え、憲法14条に違反し、男子を全て痴漢扱いしていることを前提にしているため、個人の尊厳を定めた憲法13条に違反するもので、上記制度によって痴漢扱いされる屈辱感、差別から生じる不公平感などから原告が○○病となり、心身に疾患を生じて医療費を負担するとともに、最も便利な中央部車両が利用できないことから生じる不便、時間的喪失などの損害を被ったことを主張し、民法709条に基づき、被告に対して慰謝料を請求した事案である。

(判旨)

 以上の事実に照らすと、被告による女性専用車両の導入は、痴漢被害防止という正当な目的を有し、痴漢被害のためには必要かつ有効なもので、被害の多い路線で、かつ被害の多い時間帯において、その一部の車両に設けているに過ぎず、旅客に契約上の義務や罰則を課すものでもなく、あくまでも任意の協力の下に実施され、アンケート調査においても国民の多くの支持を受け、多くの鉄道事業者で現実に導入されている制度であることが認められる。

 以上の点からすると、女性専用車両の導入については、目的、手段の相当性・合理性が認められ、憲法14条に違反するとはいえない。

結論として、大阪地裁は女性専用車両は憲法14条、13条に違反するものでないとして、原告の請求を棄却している。

判決文を読んだ感想としては、原告の主張がいかにも粗っぽく、これでは棄却されてしまうであろうといったものである。

問題にすべき憲法上の論点

女性専用車両の違憲性を主張する場合は、性別による不合理な差別を禁止する憲法14条1項後段違反を主張するのが不可欠である。もともと勝率の極めて低い憲法訴訟を制するには、相手方の弱点の1点突破が基本中の基本の戦術であり、原告は14条1項後段違反のみに論点を絞って主張をするべきである。この点について、本件訴訟の原告は、女性専用車両は「男子を全て痴漢扱いしている」との無理筋な主張をした上で13条違反を主張してしまっており、全体的に主張がぼやけてしまっている。

平等権違反の主張の仕方

平等権違反を主張する場合は、原告が合理的な根拠のない区別、すなわち差別を受けたことを主張・立証しなければならない。合理的な根拠の有無は、本件判決もそうであるように、一般に目的・手段審査が用いられる。具体的には、①その区別の目的が正当で、②その区別が目的との合理的関連性を有し、手段として相当であるかどうかという基準が使われる。もっとも、14条1項後段列挙事由である「性別」による区別は原則として合理的な理由がないものと考えられるから、違憲性は厳格に判断すべきである。

①目的の正当性

女性専用車両の目的は痴漢対策である。個人的には経済的側面を有しているとも考えているが(*1)、主たる目的が痴漢対策であることを争うことは困難であろう。痴漢対策の目的の正当性自体は認めざるを得ないものであり、目的の正当性(あるいは重要性)で争うことは得策ではない。

②手段の合理性・相当性

痴漢犯罪の被害者は女性、加害者は男性が多いことに疑いはなく、女性と男性を隔離することに痴漢対策に役立つ点があることは否めないだろう。もっとも、女性専用車両を設置しても、痴漢は一般車両に乗ることが想定されるから、その効果は限定的であるといえる。それに対し、痴漢でない大多数の男性までも排除してしまう女性専用車両に合理性・相当性があるとはいえない。

ここまでのロジックはそれなりに説得力はあるだろう。もっとも、それは女性専用車両が強制力をもつものであるということが前提だとした場合の話だ。

本件判決では、合憲性の根拠となる事実として、以下の事実を認定している。

女性専用車両の制度により、女性旅客にも男性旅客にも乗車車両について運送契約上の義務を負わせることはなく、任意の協力によって行なわれているもので、高齢者や障害者等の優先座席と同義であり、男性が女性専用車両に乗車しても、運送契約違反になることもなく、一般車両に移動する義務もないうえ、何らの罰則もない。

要するに女性専用車両といっても名目だけで、実際には男性も乗れるから問題ないということだ。しかし、実際の女性専用車両には、男性が乗れないと誤解してもおかしない表記がされており、車掌や警備員等の声かけにより男性が排除されているという運用がある。契約上は男性も乗れるから問題ないというのはあまりに説得力に欠ける。

原告としては、このような事実上の運用を緻密に主張・立証していく必要があったが、原告がそのような主張・立証に成功した形跡は本判決にはない。

次に、本件判決は以下の事実を指摘し、女性専用車両を合憲としている。

(1)被害の多い路線であること

(2)被害の多い時間帯であること

(3)一部の車両に設けていること

これらは手段の合理性・相当性を肯定する要素になる。要するにこれくらいなら男性も我慢できるでしょということだ。

本判決を踏まえた今後の違憲性の主張の仕方

①被告選択

違憲判決を獲得するためには、どこを訴えるかが最も重要である。どうせ訴訟をおこすなら、少しでも勝率の高い被告を選択すべきである。上記判決を踏まえた勝率の高い鉄道会社・公共団体は次のとおりだ。

(1)痴漢被害件数の少ない路線で女性専用車両を運営している。

(2)時間の区別なく終日女性専用車両を運営している。

以上の条件にあてはまる女性専用車両は、手段の合理性・相当性の認定の面で違憲になりやすいと考えられる。

②証拠収集

女性専用車両を違憲にするための最大のネックは女性専用車両は優先座席と同じ任意協力に過ぎないという点だ。この点を乗り越えて違憲判決を獲得するには、実際の運用は事実上の強制であることを原告の側で立証しなければならない。

収集すべき証拠は次のとおりだ。

(1)女性専用車両案内に関する表記に関する写真、音声。

(2)車掌・警備員等の声かけに関する資料

任意協力であることを覆すためには、その表記や案内が強制的な専用車両であることを印象付けるものだという証拠を提出しなければならない。優先座席とは明らかに異質であること裁判所に理解させるのである。その際は、「専用」という表記・案内、任意協力であることを伺わせる表記・案内がないことを客観的に示す資料が必要である。

また、実際の運用として任意協力の範囲を超えて事実上強制的に男性が排除されている実態を示す資料として(2)が重要となる。(2)はできる限り多数の資料が必要となる。1回限りの行為であれば、1人の鉄道員の暴走行為として、当該行為が不法行為や債務不履行になりうるのみで、女性専用車両そのものの違憲性に繋がらないからだ。実態として、女性専用車両を文字通り専用車両として鉄道会社・公共団体が組織の意思として運用していることを立証しなければならない。

以上が、女性専用車両を違憲とするための訴訟戦略である。

*1 女性専用車両はなぜなくならないのか? - 法廷日記