法廷日記

浦部孝法の日記です。時事問題、法律問題に関して適当に書いています。

弁護士をつけずに離婚調停に挑むならこの一冊は読んでおこう

あまり一般的には知られていませんが、司法試験では離婚に関する知識はほとんど問われません。そのため、かなり上位で合格する受験生でも、離婚のところはほとんど勉強しません。そんなところを勉強するのはあまりに非効率だからです。単に司法試験に受かったというだけでは、婚姻費用や養育費の計算の仕方もわかりませんし、財産分与についても無知です。下手すれば、法定の離婚原因すらも知らないでしょう。このように、弁護士資格は離婚についての専門家という担保にはなりません。

ところで、日本では法的手続を使って離婚をするには、まず離婚調停から始めなければなりません。調停とは、いわゆるお話合いをする手続で、裁判のように法的に白黒をつけるような手続ではありません。最初から白黒つけるために裁判を起こしたくても、このお話合いを経ないとだめだというのが日本の法律になります。

そして、このお話合いの手続の運営にたずさわるのが家事調停委員。非常勤の裁判所職員です。中高年(40~70歳)の紳士・淑女の男女2名が調停を成立させるべく奔走します。調停委員の中には弁護士などの法律の専門家もいますが、多くは法律については全くの素人さんです。素人さん枠についてはヴェールに包まれた調停委員ネットワークで採用が決まるとのうわさですが(要するに推薦・紹介)、詳しいことはよくわかりません。

このように資格によっても離婚の法律知識は担保されておらず、肝心の手続機関である裁判所は素人集団が調停の進行にたずさわります。日本は、法的手続を使って適正に離婚をしたいという人には厳しい国なのかもしれません。

さて、離婚調停の場合、結構な数の人が弁護士なしで調停にのぞみます。離婚するしないや、子供の親権のような話は、感情的な部分もあるので調停委員に間に入ってもらって感情のおもむくままに当事者同士で話あってもらえばいいかもしれません。しかし、養育費・婚姻費用、財産分与などの金の話はまた別問題です。これらについてはある程度計算方法が決まっているので、きちんと知識を持っておかないと大損することになります。個人的には、相手からお金を取れる側はきちんと弁護士をつけて相手の収入や財産を調べてもらった方がいいと思います。ですので、以下は主にお金を取られる側に向けて書きます。

調停は話合いなんだからと知識武装をしない人もいますが、「俺は一円たりとも払わない。」「私のものは私のもの。相手のものも全部私のもの。」と腹を決めたある意味最強な人以外の常識人が知識武装しないまま調停にのぞむは非常に危険です。特にお金を取られる側は十分な知識をもっておくべきです。

人間予想できないことには、恐怖を感じて弱気な選択をしてしまいがちです。知識がなければ、調停委員のなんら法的な根拠をもたない説得をうのみにしてしまったり、相手の法外な要求をのんでしまうおそれが高まります。一方、ドンパチ(審判・裁判)した場合の予想される結果を認識していれば、無茶な要求は突っぱねることができます。

そこで、最低限読んでおきたいのがこの1冊。

本書は裁判官が書いた離婚調停の解説本です。主に素人の調停委員向けに書かれているので、素人にも十分理解できる内容となっています。お金を取られるだけの稼ぎがある人なら十分理解できます。わかりやすいからといって表面をなぞっただけの薄い内容でもありません。とりあえずこれ1冊持っておけば十分というレベルです。

本書を読めば、自分でも婚姻費用・養育費、財産分与の額などは概ねの数字が出せるようになります。金を取られる側の方は、相手の要求が算定額を超えていれば拒否すればいいし、調停委員がこちらに著しく不利な数字で強引に説得しようとしてきた場合はズバリ算定根拠を示して自分の希望額を提示してやればいいです。それで話合いがつかなければ、調停不成立(交渉決裂)にしてもらって法的に決着をつければいいだけの話です。

3000円強と新書や文庫しか読まない層には少々お高い金額ですが、弁護士費用や知識を持たずに調停に挑んで絞りとられる額に比べれば、些細な出費です。

最後に、「お話合いの結果」というお題目の下、裁判では到底認められないような法外な要求が正当化されるのが調停手続です。そのような制度下ではある意味恥知らずのキチガイが最強です。不当な要求についてはきちんと抑えてくれる良心的な調停委員がほとんどだと思いたいですが、調停委員は合意を成立させるのが仕事です。キチガイの要求がたとえ法的に認められる範囲を逸脱していても、説得困難なキチガイより聞き分けのよい常識人に働きかけをしてしまいがちになっちゃうのではないでしょうか。独力で離婚調停にのぞまれる方も、きちんと知識を持って、不当な要求には断固ノーを突きつけましょう。