法廷日記

浦部孝法の日記です。時事問題、法律問題に関して適当に書いています。

ブラック企業の被害者を生み出すのは消費者

ブラック企業批判がなされるとき、その矛先は主にブラック企業の経営者です。経営者が努力をしないから、労働者がうかばれないんだというものです。

しかし、不遇な労働者が生まれるのは本当に経営者の責任なのでしょうか。

よくブラック企業として挙げられるのは、大衆居酒屋チェーン、激安ファストフードチェーン、長距離バスなどです。どっちかというと大衆向けのサービス業が多いですね。いずれも競争、とりわけ価格競争が激しい業界です。

それらの企業が、労働者に良い環境を提供する手っ取り早い方法は、利益を大きく上げることです。利益が大きく上がれば、人員の増加による労働者一人あたりの労働時間の短縮や賃上げをすることができます。

さて、ここで利益の算出方法を確認しましょう。

利益=顧客単価×顧客数-(原価+販管費)

簡単にいえば、入ってくる金を増やして出ていく金を減らせば利益は上がります。

そのため、サービスの値段を上げてお客さんがいっぱいくれば当然利益は上がります。でも、そんなうまいことはいかないですよね。

大衆居酒屋が単価を上げたらお客さんは確実に減ります。激安ファストフードが単価を上げたら、既存客はコンビニなどの代替サービスを使います。長距離バスが値上げをしたら、新幹線や飛行機を使いますよね。顧客単価を上げることは、大衆向けサービスの存在意義自体の否定なので、そんなことはできません。

次に入る金は変わらずとも、出ていく金を下げることで利益を上げることもできます。

しかし、飲食店が食材費を下げ過ぎるとお客は顕著に離れていきます。ただでさえ乗り心地の悪いバスが、さらに劣悪な車両になれば長距離バスを使う人は減ってしまいますよね。

結局、利益を上げようとしてもお客さんが許してくれないので、経営者は単価を上げたり、食材などの原価を下げたりすることはできません。その上顧客はさらに安くて良いものを求めるので、利益を上げて企業を存続させるということは至難の業です。そのため飲食店なんかで開業後10年も残っているところはほとんどありません。昔やっていたマネーの虎という番組で、偉そうに金を並べていた億万長者の飲食店経営者も現在ではほとんど倒産しています。

では、なんとか利益を上げて企業を存続させるには経営者はどうすればよいでしょうか。それは、顧客数を上げることと、人件費を下げることです。

営業時間を長くすれば、顧客数は上がります。お客さんにとっても、店の営業時間が長くなることはうれしいでしょう。だから大衆居酒屋は深夜まで営業していますし、激安ファストフード店は24時間営業になります。長距離バスは運行本数を増やすことで顧客数を増やします。

また、人件費を減らすことはてっとり早く利益を上げる方法です。従業員の給料に関心を持っているお客さんなんてまずいませんから、従業員の給料を下げてもお客さんはお店に来てくれます。顧客が違いを感じないギリギリの限度で人員を削減するのも有用です。食材の原価やバスのシートと違い、余分な人員は顧客に対して価値を生み出さないからです。ギリギリの人員で対応するので、従業員には休んでもらうわけにはいけません。営業時間も長くしているので、残業もしてもらわなければなりません。労働者にとっては非常に迷惑な話ですね。

しかし、「安くて良いもの」という消費者のニーズに答えるには、労働者に負担を負ってもらうしかないわけです。企業がブラック化するのも、すべてはお客さんのためです。お客さんがクレームもつけずに金をたくさん払ってくれれば、企業はギリギリまで人件費を減らす必要はありません。

結局、労働者の労働環境を悪くすることを望んでいるのは、お客さんである消費者なのです。