第3回「住宅ローンは自分名義で組むな、組んだら家から絶対出るな」
目次
1.住宅ローン付住宅は離婚紛争長期化の要因
2.不公平な日本の財産分与制度
3.ローン付住宅から出たら地獄
1.住宅ローン付住宅は離婚紛争長期化の要因
住宅ローンの付いた住宅は離婚紛争長期化の要因です。住宅ローンの存在は、婚姻費用でも問題になりますが、主には財産分与で問題になります。家の処分・借金の処理をどうするかということでもめるわけです。
財産分与の話し合い・訴訟の長期化は、婚姻費用の支払期間の長期化にもつながります。財産分与は理論上は離婚後にもできますが、離婚だけ先にして婚姻費用を放棄してくれる気前のいい妻はあまりいません。
基本的には、財産分与が解決するまで夫は婚姻費用を払い続けなければなりません。
2.不公平な日本の財産分与制度
婚姻費用からは少し話はそれますが、ここでいかに日本の財産分与制度が不公平か確認しましょう。
財産分与は簡単にいうと、夫婦で作った財産(不動産、預金、株等)から夫婦で作った借金を引いたあまりを夫婦で半分こしましょうという制度です。
例えば、夫名義の資産が1000万円、夫名義の借金が200万円ある夫婦では、1000万円から200万円を引いた800万円の2分の1である400万円を夫が妻に分与することになります。これはまあ平等ですね。
では、夫名義の資産が200万円、夫名義の借金が1000万円ある夫婦ではどうでしょうか。さきほどの例をもとに考えれば、200万円から1000万円を引いた、800万円の借金部分の2分の1である400万円を妻が負担するというふうになりそうです。
しかし、そうはなりません。この場合、分与する財産がないので、財産分与自体がなくなり、夫は自己名義の1000万円の借金を一人で負担することになります。日本の法律では債務超過の借金は分与されないのです。
プラスのときだけ半分こして、マイナスのときは負担を半分こしない。普通に考えれば、これはとても不公平なことだと思います。しかし、こんな不公平がまかりとおってしまっているのです。
この不公平は、住宅ローン付住宅がある場合に顕在化します。というのも、多くの住宅の価値は住宅ローンの残債務よりも低いからです。いわゆるオーバーローンというやつですね。
この場合、預金などの他の資産がない限り、夫婦の共有財産は債務超過になり、名義人である夫が離婚後も残った借金を払い続けなければなりません。
ですので、住宅ローンの名義人になるということはこういう覚悟をしなければならないものなのです。
3.ローン付住宅から出たら地獄
住宅ローンの恐ろしさを説明しましたが、それでも一戸建てや分譲マンションには賃貸にない良さがあります。それを重視して、分譲住宅を購入するというのも個人の選択としてはありでしょう。
しかし、一度自分名義で借金をして住宅を買ったなら、その家からは絶対に出てはいけません。
ときおり、夫名義の住宅に妻が残り、夫が家を出て別居するという夫婦がいます。これは、夫にとって最悪のパターンです。
さて、ここで婚姻費用の算定の仕方を思い出しましょう。婚姻費用は、夫の収入と妻の収入を確定して、算定表にあてはめて機械的に算定します。例えば、夫の年収1500万円、妻の年収100万円の夫婦で、妻が高校生の子2人の養育をしている場合、夫が妻に支払う婚姻費用は月額30~32万円になります。この30~32万円には住宅にかかる費用も当然考慮に入れらています。
それでは、さきほどの夫婦で、夫が毎月16万円の住宅ローンを払っている家を出て、妻が家に残った場合はどうなるでしょうか。この場合、事実上夫が妻の家の家賃を払ってやっているようなものです。そのため、夫が支払っている住宅ローンは多少婚姻費用の算定の考慮に入れられます。
ではどれくらい考慮されるのでしょうか。
平成22年11月24日の東京家裁の審判では、夫が毎月16万円の住宅ローンを支払っている家に妻が住んでいた事例で、夫の住宅ローンの支払について考慮すべき額を3万円としました。毎月16万円払っているのに考慮されるのはたったの3万円です。
どう考えても不公平です。この場合、夫は毎月ローン16万円、算定表から3万円を引いただけの婚姻費用、自分の生活費(家を出ているので家賃もかかる)を負担しなければなりません。とてもじゃないですが、まともに生活なんてできないです。裁判官はそれでも、この結果が「当事者間の公平に反するとはいえない」などとしています。あまりにも世間知らずなのではないでしょうか。怒りすら覚えます。
このように、日本の裁判所は住宅ローンを払っている夫にあまりにも優しくないので、住宅ローンを払っているのであれば絶対に家を守りきらなければなりません。
次回予告:第4回「婚姻費用で揉める夫婦、揉めない夫婦」
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