未払いの給料等の請求をされている方のなかには、遅延損害金の利率が控えめにしてしまう方もいるみたいなので、本日は賃金債権の利率に関する記事でも書いてみます。
支払期日を過ぎたら遅延損害金が発生する
賃金に限らず、売買代金なり、請負代金なりのなんらかの支払期日のある金銭債権がある場合、決められた支払期日を過ぎると、債務者は遅延損害金を債権者に支払わなければなりません。というのも、きちんと支払期日に金銭が支払われていれば、債権者はそのお金を運用して利息等を得ることができるはずだったのに、それができなくなるからです。
遅延損害金の利率は当事者間で約束がある場合はそれにしたがい(ただし暴利は無効となる)、ない場合は法律の定める利率が適用されます。
通常の債権であれば、民法の定める年5パーセント、商取引によって生じる債権であれば商法の定める年6パーセントが適用されます。
賃金債権には商事法定利率が適用される
では、未払賃金債権に適用される法定利率は民法か商法どちらが適用されるのでしょうか。
雇用契約は商人が雇主として締結するものなので、その営業のためにするものと推定され、賃金債務の遅延損害金の利率は商法の定める年6パーセントの利率が適用されるとするのが判例です。
なお、賃金債権の消滅時効は2年と短いので注意しましょう(労働基準法115条)。
退職後はさらに年14.6パーセントの利率が適用される
未払い賃金債権で注意しなければならないことは、退職の日までに支払われなかった賃金については、退職の日の翌日から支払日までの期間について、年14.6パーセントの利率の遅延損害金が発生するという点です。
この利率は、賃金の支払の確保等に関する法律および同法施行令に定めがあります。実務家の間でも意外と見落とされがちなので要注意です。
賃金の支払の確保等に関する法律6条
1 事業主は、その事業を退職した労働者に係る賃金(退職手当を除く。以下この条において同じ。)の全部又は一部をその退職の日(退職の日後に支払期日が到来する賃金にあつては、当該支払期日。以下この条において同じ。)までに支払わなかつた場合には、当該労働者に対し、当該退職の日の翌日からその支払をする日までの期間について、その日数に応じ、当該退職の日の経過後まだ支払われていない賃金の額に年14.6パーセントを超えない範囲内で政令で定める率を乗じて得た金額を遅延利息として支払わなければならない。
2(略)
賃金の支払の確保等に関する法律施行令1条
賃金の支払の確保等に関する法律 (以下「法」という。)第六条第一項 の政令で定める率は、年14.6パーセントとする。
年14.6パーセントという利率は消費者金融なみのなかなか高い利率です。100万円であれば年間14万6000円にもなりますからね。
賃金債権の利率や時効といったことは、極めて基本的な知識ですが、意外にも弁護士でも間違える人はチラホラいます。これを間違えたら普通に弁護過誤になって、場合によっては懲戒になってしまうでしょう。
この程度の基本的知識は裁判官が労働事件に携わる裁判官、弁護士、労働審判員向けに書いた「労働事件審理ノート 」という労働事件のバイブル的書籍にもきちんと書いてあります。