法廷日記

浦部孝法の日記です。時事問題、法律問題に関して適当に書いています。

雇用契約書なんて作る義務ないよ

某界隈で雇用契約書を作る作らないで揉めているみたいですが、労働契約において雇用主に雇用契約書を作成する義務はそもそもありません。

この点勘違いしている人も多いのですが、契約というものは当事者の合意があれば成立するものであり、保証契約などの一部の例外を除いて書面で締結する必要はありません。労働契約も原則どおり口頭のみで成立します。契約書はあくまで契約が成立したという証拠のために作るものにすぎません。労働契約の成立それ自体は、契約形態が請負契約か労働契約かを激しく争うような場合は別として、立証が問題となることは少ないでしょう。

もちろん雇用契約書が存在しないからといって解雇しやすくなるなどということはなく、労働法規による規制を受けます。雇用契約書や就業規則なんてものは、むしろ企業側が防衛のために作るものであって、今回なんで労働者側が「雇用契約書!雇用契約書!」と騒ぎたてるのかいまいちよくわかりません。

もっとも、使用者は労働者に労働条件を示した書面を交付する義務があります(労基法15条、同法施行規則5条)。これに違反していたら一応罰金の罰則があるので、労働者としては雇用契約書の存否ではなくこの点の事実関係を確認すべきでしょう。

以上のとおり、使用者に雇用契約書の作成義務はなく、雇用契約書を作らなかったからといって解雇しやすくなるなどということはありません。そのため、解雇しやすくするため雇用契約書を作らないのだという議論はナンセンスです。雇用契約書や就業規則をきちんと作らない企業は、むしろ労働者に対する防衛意識の低い会社です。従業員の切り捨てをしやすくしようと考えているような会社は、そもそも解雇規制のかかる労働契約の形態にはせずに、個別の請負契約の形にすることもあります。