法廷日記

浦部孝法の日記です。時事問題、法律問題に関して適当に書いています。

ノンブランド和牛を松坂牛と偽って販売することは詐欺にならないのか

有名しゃぶしゃぶチェーンの木曽路の一部の店舗で、ただの和牛をブランド牛の松坂牛と偽ってコースを提供していたことが発覚した。

しゃぶしゃぶ木曽路3店の松阪牛、実は無銘柄牛 : 社会 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE)

食品偽装問題が発覚するたびに大勢の人が持つ疑問がある。「それって詐欺にならないの?」というものだ。そこで、詐欺罪の成否について検討してみよう。

詐欺は刑法の詐欺罪で罰せられる。条文は以下のとおりだ。

刑法246条1項

人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。

詐欺罪が成立するには、人を欺(あざむ)く行為が必要となる。これは法律用語では欺罔行為(ぎもうこうい)と呼ばれる。

欺罔行為があるといえるには、「詐欺の相手方が本当のことを知っていれば財産の処分行為を行わないような重要な事実を偽ること」が必要になる。単なるかけひきのためのちょっとした誇張などでは詐欺にはならない。

では、単なる和牛を松坂牛と偽ることは欺罔行為になるだろうか。松坂牛といえば、誰もが知っている高級ブランド牛である。そのブランドの高さゆえに松坂牛を食べること自体がネタになるほどであり、松坂牛とノンブランドの和牛とは全くの別物の扱いになるだろう。

普通の人であれば、松坂牛でなく単なる和牛であると知っていれば、松坂牛と表示されたコースを注文しないといえるだろう。したがって、単なる和牛を松坂牛と偽ることは、重要な事実を偽ったといえ、詐欺罪の欺罔行為にあたると考えられる。

そして、被害者は、頼んだ料理が松坂牛であると勘違いしたことによって、料理の代金を払っているのであるから、詐欺罪の構成要件である錯誤に基づく処分行為があるといえる。

では、提供した和牛がコースの値段に見合うものだとしたらどうだろうか。この点について、最高裁判例は、2100円相当の電気アンマ器を小児麻痺等に効果のある特殊な治療器であり本来の価値はより高価なものであるように偽って2200円で販売した事例について、「たとえ価格相当の商品を提供したとしても、事実を告知するときは相手方が金員を交付しないような場合」には詐欺罪が成立するとしている。

この判例からすれば、仮に提供した和牛がコースの値段にふさわしい物であっても、通常それよりも高い価値を有するであろう松坂牛であると被害者が勘違いして料金を支払ったのであれば、詐欺罪の成立を妨げる事情とはならないと考えられる。

最後に問題となるのは、加害者側の故意である。詐欺罪の故意が認められるには、相手方を勘違いさせる故意とその勘違いを利用して財物をだまし取る故意が必要になる。

単なる和牛を松坂牛と偽って提供する場合、偽物を提供する認識があるのであれば、上記故意が認められることに何ら問題はないだろう。

以上により、単なる和牛を松坂牛と偽って販売する行為には詐欺罪が成立するといえる。