家族法関連で注目すべき最高裁判決が出ました。
事案の概要は以下の通り
- V男とA女が結婚(H11)
- A女がM男と不倫(H20)
- A女が妊娠、M男の子であるおそれがあるためV男には内緒でK娘出産(H21)
- V男が出産入院中のA女を発見、V男・A女を両親として出生届提出(H21)
- V男・A女協議離婚、親権者をA女とする(H22)
- A女、M男、K娘同居生活をする
- A女がK娘の法定代理人として親子関係不存在確認の訴えをおこす(H23)
- DNA鑑定によるとK娘はM男の子であることがほぼ確実
民法では婚姻中に妻が妊娠した子供は夫の子供であると推定されます(嫡出推定、民法772条)。この嫡出推定は、婚姻中にできた子供は普通は夫の子供であろうという趣旨に基づきます。ですので、推定の根拠となる関係が夫婦にない場合などには、推定が及ばないということで、親子関係不存在確認の訴えで父子関係を争うことができます。
イメージとしては夫側がこの子は俺の子供じゃないよっていうことで使いそうな手続ではありますが、今回は妻がお前の子じゃないよという感じで子どもを代理して訴えを起こしています。対する夫は、いやいや法律上は俺の子だよっていう感じで反論しています。
最高裁は、K娘を妊娠した当時にV男とA女に夫婦の実態がなかったわけではないことなども指摘しながら、生物学上V男とK娘に親子関係がないことが明らかで、夫婦が離婚してA女のもとでK娘が育てられているとしても、父子関係の存否を争うことはできないとしました。いくら血縁関係がなくても一度決まっていた父子関係が変わってしまっては子どもの身分の安定上よろしくないということでしょうか。
判決の是非はともかく、不倫男の子を自分の子と認めるというV男さんはすごいですね。V男さんは、今後もK娘の養育費とかも払ったり、面会交流なども求めたりしていくのでしょうか。K娘ちゃんはなんか複雑な事情に巻き込まれて少し気の毒ですね。
判決文
「夫と子との間に生物学上の父子関係が認められないことが科学的証拠により明らかであり,かつ,夫と妻が既に離婚して別居し,子が親権者である妻の下で監護されているという事情があっても,子の身分関係の法的安定を保持する必要が当然になくなるものではないから,上記の事情が存在するからといって,同条による嫡出の推定が及ばなくなるものとはいえず,親子関係不存在確認の訴えをもって当該父子関係の存否を争うことはできないものと解するのが相当である。このように解すると,法律上の父子関係が生物学上の父子関係と一致しない場合が生ずることになるが,同条及び774条から778条までの規定はこのような不一致が生ずることをも容認しているものと解される。
もっとも,民法772条2項所定の期間内に妻が出産した子について,妻がその子を懐胎すべき時期に,既に夫婦が事実上の離婚をして夫婦の実態が失われ,又は遠隔地に居住して,夫婦間に性的関係を持つ機会がなかったことが明らかであるなどの事情が存在する場合には,上記子は実質的には同条の推定を受けない嫡出子に当たるということができるから,同法774条以下の規定にかかわらず,親子関係不存在確認の訴えをもって夫と上記子との間の父子関係の存否を争うことができると解するのが相当である。しかしながら,本件においては,甲が被上告人を懐胎した時期に上記のような事情があったとは認められず,他に本件訴えの適法性を肯定すべき事情も認められない。」