保険をかけた場合、保険者は保険をかけていない人と比べて保険の対象となった損害への関心が薄くなり、損害発生のリスクが高まるという現象をモラルハザードといいます。
この概念は、保険の世界だけでなく、一般的な概念として使うことができます。
すなわち,それは,「契約を締結した者は契約の相手方に対して不利な行動を取るインセンティブを抱きやすい」という現象である。
引用元:「数理法務概論」(有斐閣) 44頁
この意味で、弁護士のモラルハザードも考えられます。例えば、タイムチャージ制の契約をした弁護士は、必要以上に時間を費やしてしまうといったことがあげられます。
噂レベルですが、実際、刑事事件の報酬契約で接見(*)日当を設定している法律事務所が、依頼人からの預り金がなくなる直前までむだに接見に行くということが報告されています。
モラルハザードの問題を軽減するには、以下の2点が参考になります。
- 契約相手の損害回避に関する情報を把握すること
- 成果報酬制を導入すること
1については、弁護士の業務に必要な時間を知っていればタイムチャージの上限をつけることで、不必要な業務の分まで請求されることを防げます。しかし、顧客側が、弁護士の業務に必要な時間を知ることはなかなか難しいかもしれません。
一方、2の成果報酬制の導入は、比較的有効に働くと思われます。刑事弁護の報酬設定で、接見日当は設定せず、不起訴や執行猶予などの成果に対して報酬を支払うことにすれば、弁護士に不必要な接見日当を支払うことは避けられることになります。
弁護士と契約するときは、何に対して報酬がかかるかはしっかりチェックして、無駄な報酬を払わなくていいように注意しましょう。
*接見:弁護士が留置場や拘置所に行って身柄拘束を受けている被疑者と面会すること