なんだか面白い裁判を起こしている人がいます。
過払い金請求訴訟、「司法書士の支援違法」 女性、報酬返還求め提訴 - 西日本新聞
事案の概要は、要するにサラ金に払い過ぎた利息を返還請求する訴訟を司法書士に依頼した女性が、司法書士の行為は非弁行為だから払った報酬を返せというものです。
司法書士が行える業務
まず、基本的なところについて解説すると、司法書士には請求額が140万円以下の事件にしか訴訟代理権が認められていません。もし、司法書士が請求額150万円の訴訟を代理したら、弁護士法違反になって処罰されます。そのため、請求額が140万円を超える訴訟を行うには、本人で行うか、弁護士に頼むしかありません。
過払い金返還訴訟ブーム
司法書士が裁判業務に関わるようになってきたのは、サラ金に払い過ぎた利息を返還請求するいわゆる過払い金返還訴訟がブームになった時期です。なかには過払い金返還請求を専門にする事務所も出てきて、相当儲けていました。今でもテレビCMとか電車のつり革広告でよく見かけますよね。
ところが、過払い金返還請求を司法書士が取り扱うにあたって、一つ問題がありました。払い過ぎた利息が140万円を超えることが珍しくなかったのです。
本人訴訟支援という手法
司法書士は請求額が140万円を超える訴訟を代理することができないので、払い過ぎた利息が140万円を超える依頼者が来た場合の処理は次の2通りあります。
一つは、本当は200万円請求できる場合でも請求額を140万円にして訴訟を起こす方法です。しかし、本来請求できる額をわざわざ捨てることになるので依頼者が納得しませんし、司法書士もとれる報酬をとりっぱぐれてしまいます(*1)。
そこで二つ目の手法として、本人訴訟支援という手法が生み出されました。これは、訴状などの書類は司法書士が作成するが、裁判には依頼者本人に出廷してもらうことで、見かけ上司法書士は代理をしていないから、弁護士法違反にならないとする手法です。
地方裁判所(*2)で、過払い金返還請求訴訟を傍聴すると、本人が出廷していて、司法書士が傍聴席にいるなんてことはよくあります。司法書士は法廷の中に入れないので、傍聴席から本人に指示を出しているのです(たいがいは指示は出さずに見守っていて、次回の裁判の期日を確認しているだけ)。
司法書士に過払い金訴訟を依頼するのは選択ミス
ところで、140万円を超える過払い金返還請求訴訟を弁護士に依頼した場合はどうなるかというと、まず依頼者本人は原則として裁判に出廷する必要はありません。弁護士は当然に訴訟代理権がありますので、本人の代わりに裁判に出廷できます。
また、費用に関しても、今回の記事の女性は返還額の28%を報酬として支払っているみたいですが、これは一般的な弁護士報酬よりも高めになっています。金銭面でも司法書士に頼むメリットはないですね。
弁護士のなかでも、もちろん当たり外れがあるわけで、それは外部からはわかりにくいので、外れの弁護士を引いちゃった依頼者は気の毒だし、本人に責任はないでしょう。
しかし、司法書士に依頼したら本人が裁判に出廷しなければならなくなることや、報酬が格別安いわけでもないことはちょっと調べればわかることです。過払い金返還訴訟を依頼するにあたって、司法書士と弁護士を選び間違えるのは自己責任でしょう。
ちなみに、司法書士に本人訴訟支援をしてもらった訴訟が、さんざん審理に付き合わされた結果、結局弁護士代理の原則に反するからと訴えが不適法却下された事例もあるそうですよ(*3)。この事案では、司法書士がやりすぎていた部分があるので、この判決が一般化できるかは微妙ですが。
*1 通常司法書士の報酬は獲得した金額の何割という設定がされている。
*2 訴額が140万円以上の事件は地方裁判所の管轄になる。
*3 富山地方裁判所判決平成25年9月10日