法廷日記

浦部孝法の日記です。時事問題、法律問題に関して適当に書いています。

何でもするという契約は法的に有効なのか-プロブロガー50円でなんでもやります事件

某プロブロガーが「自分の1日を50円で売る」「依頼内容は何でもOK」という旨の企画を実施したものの、「日雇いで働いて給料をくれ」という依頼を断ったことが話題となっている。

プロブロガーが「1日を50円で売ります」企画 「依頼内容は何でもOK」なのに日雇い労働を断り物議 - BIGLOBEニュース

既に50円を支払った依頼者側は、日雇い労働を履行するよう求めていたが結局は返金で解決したようである。

本件は当事者の話合いにより無事解決したのでよかったが、話合いがこじれた場合、ブルーアイズ高卒ドラゴン氏は宮森氏に日雇い労働の給料を請求することができたであろうか。1日50円でなんでもするという契約が果たして有効なのだろうか。

近代民法のもとでは、誰とどのような内容の契約をするかは自由に決定することができる(契約自由の原則)。そして、いったん自らの意思で契約を締結した以上、当事者は締結した契約に拘束される。契約内容に拘束されるのは、自己決定に基づく自己責任である。

もっとも、自由意思によって締結した契約が全て有効になるわけではない。例えば、Aを殺すという契約が自由意思によって締結されたからといって、国家がそれを強制することはできない。したがって、契約自由の原則には一定の制限がかかる。

契約が有効になるための一般的な要件は次のとおりだ。

  1. 内容が確定していること
  2. 実現が可能であること
  3. 適法であること

まず、内容がはっきりしない契約というのは国家がそれを強制的に実現することができないないので、これを有効にすることはできない。また、例えば太陽まで連れていくといったおよそ実現不可能な契約も無効である。さらに、前の例のような「人を殺す」といった不適法(公序良俗違反)な契約も無効である。

本件の「1日50円でなんでもやります」という旨の契約は上記でいうところの1の内容が確定していることの要件をみたさないと考えられる。「なんでもやる」というのはあまりにも漠然・広範とした内容で、内容が確定しているとはいえないだろう。

もっとも、「なんでもやる」の意味を限定的に解釈することで、本件契約自体は有効と解釈する余地がないわけでもない。

しかし、その場合でも、ブルーアイズ高卒ドラゴン氏が宮森氏に日雇い労働をし給料を請求することは契約の範囲外であるか、または権利濫用となり、認められないと考えられる。

一般常識からの契約の内容の解釈として、対価50円に対して、日雇い労働の給料を支払うというのはあまりにも対価が不相当で契約の範囲外と解釈される可能性が高い。労働契約への介入は労基法上の問題も生じうるだろう。また、民法は、権利が認められる場合でもその濫用を禁止しており、ブルーアイズ高卒ドラゴン氏が支払った対価50円に対し、日雇い労働の給料を全て支払うという内容の請求は、あまりにも対価が不相当であり権利濫用と評価され、同氏の請求はまず認められないと考えられる。

結局、結論としては、ブルーアイズ高卒ドラゴン氏の日雇い労働の給料請求は認められず、返金を求めることができる程度であろう。

なお、ネットの評論には本件契約を売買契約とするものもあるが、売買契約は財産権の移転を内容とするものであり、本件契約を売買契約と評価するのは無理があるだろう。契約の性質は、契約書の表記などで決まるものでなく、その内容によって決まるのである。