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法廷日記

浦部孝法の日記です。時事問題、法律問題に関して適当に書いています。

未払い残業代請求で弁護士は儲からない

どうでもいい日記 法律論

残業代請求に関して興味深い記事があった。書いているのは人事コンサルタントの城繁幸さん。

未払い残業代を後からみんなで請求したらどうなるか

残業代を勝ち取っても幸せになれるとは限らないという意見には同意だが、少し違和感を覚えたところがあった。

クレサラ問題がだいぶ片付いたため、この未払い残業代問題は、弁護士センセイ方の新たな金脈として熱い視線を集めている。

引用元:未払い残業代を後からみんなで請求したらどうなるか

未払い残業代請求が過払いバブルの次の弁護士の飯のタネになるといったことは、労働審判制度ができた平成18年頃からいわれている。しかし、それから約10年も経とうとしている現在において、未払い残業代請求が過払いに代わるような弁護士の金脈となっている事実はない。

残業代請求が弁護士の金脈になるといったことは、残業代請求に関わったことのない者の妄想だろう。残業代請求が儲からない理由は以下の通りだ。

請求額が少ない

残業代請求が儲からない最たる理由は、会社に請求できる残業代の金額が少ないことにある。

弁護士の報酬というものは、依頼者の得た経済的金額に何%かをかけたものになることが多い。そのため、請求できる金額が多ければ多いほど弁護士は儲かるわけだが、逆に請求金額が低ければ弁護士は儲からない。

ここで月に40時間サービス残業をしている時給1000円の労働者Aさんを例に、残業代をシミュレーションしてみよう。

Aさんの毎月あたりの未払い残業代は、割増された時間給1250円×40時間=6万円である。残業代の消滅時効は2年間なので、Aさんが未払い残業代を請求できる期間は2年間が最大となり、その場合の金額は6万円×24か月=144万円である。

訴額が144万円の場合の弁護士の着手金・報酬は一般的な基準で計算すると約34万円+消費税である。訴訟ではなく労働審判手続きを選択する場合はもう少し安くなることが多いだろう。この金額は弁護士が訴訟を受任して採算がとれるかどうかギリギリのラインである。

設定している時給が少なすぎると思いの人もいるかもしれないが、そもそも残業代を積極的に請求しようとする層の時給はこの程度であることが多い。医者や高給サラリーマンなどの時給が高い層は現状の待遇に満足していることが多く、未払い残業代請求をすることは少ない。また、経済的にみても高給層においては、能力の割に現状の待遇が悪い人はさっさと転職するのが得だし、能力の割に待遇が良すぎる層は未払い残業代には目をつぶって会社にしがみつくのが合理的である。

結局、そういったこともあって残業代請求の訴額は100~200万円程度の間におさまることが多い。

なお、訴訟上の未払い残業代請求については付加金というものもあわせて請求でき、さきほどの訴額144万円のケースでは最大288万円まで企業に支払いが命じられる場合がある。もっとも、企業が判決までに残業代を払ってしまえば付加金の支払を命じられることはないため、最初から付加金をあてにするケースは少ない。

眠っている残業代の金額は、数百万円単位の債権がごろごろあった過払い金とはわけが違うのである。また、過払い金のように判決がでたら企業が滞りなく支払ってくれるとも限らない。

報酬の割に労力がかかる

過払い金の請求は、サラ金会社から取引履歴を取り寄せて数字を計算ソフトに打ち込めばほぼ仕事は終わったようなものである。過払い金請求は極めて単純・定型的な業務なので、時給の安い事務員だけでもほぼ完結できてしまう。実際、過払い系の事務所の中には、弁護士は裁判所への出廷役だけで、残りの業務はほとんど事務員が行っているようなところも存在するらしい。

他方で、残業代の計算というものは過払い金の計算ほど単純ではない。残業代計算ソフトもないわけではないが、労働条件を定める就業規則は会社により様々であり、一律に残業代を計算するようなことはできない。結局残業代計算ソフトに全面的に頼ることはできず、個々のケースごとに計算をしていかなければならない。

その上、労働者が労働時間と主張しているものが、本当に労基法上の労働時間といえるのかも問題となるケースもあり、複雑な法律上の争点に直面することも少なくない。

立証が容易ではない

過払い金請求の場合、取引履歴の取り寄せがすめばほぼ立証は終わったようなものである。

対して残業代請求の場合には、取引履歴に相当するのはタイムカードということになるが、企業がタイムカードで労働時間を管理していなかったり、タイムカードの記載自体が誤りであるケースがやまのようにある。そもそもタイムカードで正確に労働時間を管理しているようなところでは、それほど未払い残業代が問題となることもないはずであるからこれは当然といえよう。

労働時間の立証というのは、1日ごとに何時から何時まで働いたかということをこと細かく労働者が立証しなければならないので、タイムカードのような客観的証拠がないようなケースでは労働時間の立証は困難を極めることになる。

訴訟で立証に失敗した場合は、労働者の残業代請求は認められないし、当然弁護士は成功報酬を得られない。

以上みてきたように、残業代請求と過払い金請求はその構造が全く異なる。残業代請求はもともと儲からない類の事件類型であり、これが弁護士の金脈となることは現状の制度下ではまずないといってよいだろう。