法廷日記

浦部孝法の日記です。時事問題、法律問題に関して適当に書いています。

介護士はハイリスク・ローリターンな職業である

介護士といえば、3K、すなわち「きつい」「汚い」「給料安い」として有名な職業であり、離職率も高い。そのため、需要に対して供給が少なく、各地の介護施設は介護士の確保に四苦八苦している。

介護士の求人サイトのアフィリエイトも多く、介護士への就職を勧めるアフィリエイトサイトも多く存在する。しかし、それらのサイトは介護士という職業が抱える本当のリスクを伝えていないように思える。

介護職が抱える本当のリスクとは、「きつい」「汚い」「給料安い」などではなく、「介護事故」と「モンスタークレーマーの存在」である。

介護事故

介護士が扱う人々は高齢者である。介護を受けているような高齢者の骨は非常にもろく、おむつを替えるだけでも骨折することがあるくらいだ。そんな高齢者が転倒しようものならほぼ確実に骨折をすることになる。

しかし、認知症による徘徊、ベッドからの転落、車いすからベッドへの移乗、リハビリのための立位保持・歩行等、介護の現場にはやまほどの転倒リスクが潜んでいる。また、転倒だけでなく誤嚥による死亡リスクも高い。

介護士がいったん事故をおこせば、それは民事・刑事の問題となる。

サービス利用者が介護事故で怪我をした場合は、治療費や慰謝料などの損害賠償問題が生じる。この責任を負うのは施設であることはもちろんのこと、個々の介護士も責任主体となる。通常、被害者側は資力があり、賠償保険にも入っている施設側を訴えることが多いが、施設に併せて介護士個人を訴えることもできるし、介護士個人だけを訴えることもできる。

次に問題となるのは刑事責任だ。事故を起こしサービス利用者に怪我を負わせた介護士には理論上刑法の定める業務上過失致傷罪が成立する。サービス利用者が刑事告訴などをしなければ、事件化されることも少ないが、ひとたび刑事告訴などをされれば立件されることになる。よほどの重過失があったり死亡事故でもなければ起訴されるまでに至ることは少ないであろうが、取り調べや再現実況見分などで私的な時間をかなり使わされることになるし、犯罪者として扱われる精神的な負担も大きい。

この意味では医者も、医療事故のリスクを抱える職業であるが、医者と介護士では報酬に雲泥の差があり、とても割にあうものではない。

モンスタークレーマーの存在

近年小学校などでは、モンスターペアレントの存在により、正常な学校運営に支障をきたしていることが問題となっている。これと同じことは介護の現場でもおきている。

小学校は大事なお子様を預かるところであるが、介護サービスは大事なご両親を預かるため、ともに大事な家族を預かるサービスという意味で、モンスターペアレントが発生する小学校と同じ構造を持っている。そのため、モンスターペアレントならぬモンスターサン、モンスタードウターが発生しやすい。

モンスタークレーマーからの無理な要望やクレーム対応は介護士の本来の業務ではないが、クレーム対応に対する組織的な対策ができている介護施設はほとんどなく、現実には個々の介護士がクレーム対応に悩まされている。

以上のように、介護士とは非常に大変な仕事である割に報酬がまったく見合うものではない。今後も、少子高齢化により供給難になることが見込まれるが、介護士の報酬が供給難によって上がることは考えにくく、単に移民の利用やロボット化が進むだけだろう。

正直介護士は全くお勧めできない職業の一つである。