法廷日記

浦部孝法の日記です。時事問題、法律問題に関して適当に書いています。

女性専用車両はなぜなくならないのか?

平成に入り女性専用車両が導入されてもう10年以上経つ。僕は、女性専用車両は男女差別を禁止する憲法14条に違反する疑いが強く、女性専用車両が導入された初期には「こんなものは10年もせずに消えてなくなる」と思っていた。現に女性専用車両が導入された海外諸国でも廃止されたところが複数ある。ところが、国内の女性専用車両は消えてなくなるどころか、むしろ拡大していっているように感じる。

もちろん、この10年あまりの間に女性専用車両が憲法違反であるとして、不法行為に基づく損害賠償請求がなされたこともあった。

それらの訴えについて、裁判所は、女性専用車両は憲法14条違反ではないと判断している(大阪地判平成15年9月29日)。

裁判所が女性専用車両を合憲と判断した背景には、実際には女性専用車両が「女性専用」でもなんでもなく、男性が乗っても問題がないという事実関係があった。仮に女性専用車両が名実ともに「女性専用」であったならば、裁判所の判断も違うものになると思われる。

しかし、この裁判所の理論は極めて形式的であり不当である。実際問題、女性専用車両には「女性専用」という表記やアナウンスがされており、男性が女性専用車両に乗り込めば鉄道員から相当程度の説得活動を受ける。そのような実態の中、女性専用車両に乗り込める男性は後述する活動家くらいであろう。そのため、女性専用車両は実質的には「女性専用」であり、不合理な性別による差別として違憲と判断されるべきであった。これまでの裁判の原告らは実質論の主張が不足していたのかもしれない。

ところで、最近では女性専用車両に反対する活動家達があえて女性専用車両に乗り込み、女性客や鉄道員の対応を動画撮影して差別を訴えるような活動をしている。差別排斥活動家や女性客、鉄道員の間でしばしばトラブルもおこっているようである。昨年ではこんな動画が公開されてかなり話題にもなった。

女性専用車両の目的は名目的には痴漢対策であるが、痴漢は女性専用じゃない車両に乗るので、はっきし言って全く痴漢対策になっていない。現に、女性専用車両導入後に痴漢が減少したというデータは存在しない。女性専用車両が痴漢対策になりえないことは、鉄道事業を運営する鉄道会社も行政も十分理解していることだろう。

では、なぜ痴漢対策効果もない、むしろトラブルにも発展する女性専用車両を鉄道会社や行政は廃止しないのであろうか。

その答えは単純な営利活動にあるといえよう。

女性専用車両は、痴漢被害を受けることなどその辺の高校生男子よりもありえないであろう熟年の方々も乗っておられるが、基本的には若い女性が集まる車両である。

そのような若い女性が集まるスポットは、若い女性をターゲットとしている企業にとっては絶好の広告スポットである。そのため、女性専用車両の広告枠は通常の車両の広告枠よりも高く売ることができる。

女性専用車両広告 | 車両広告メディア | 交通広告 | 株式会社オリコム ORICOM CO.,LTD.

女性専用車両は痴漢対策でもなんでもなく、ただの金儲け用の車両なのである。

そうだとすれば、痴漢対策としては全く不合理な女性専用車両が廃止されないのも当然である。儲かる事業をわざわざ手放す事業家はいない。

したがって、裁判所や世論が明確に「ノー」を突き付けない限り女性専用車両はなくなることはない。