結婚とは契約である。
普段、難解な契約を取り交わしているビジネスマンですらこの基本を全く意識していません。結婚とは経済的な面からみても、住宅ローンという金銭消費貸借契約を締結することよりもはるかにリスクの高い契約です。しかし、普段住宅ローンを組むのはお勧めしないという経済評論家ですらも、結婚契約の経済的リスクについて言及しません。
テレビなどのメディアでは婚活番組など、結婚を奨励する番組ばかりですが、結婚の経済的リスクについて全く説明しません。まるで、リスクの高い金融商品を何も知らない老人に売りつける悪徳証券外交員みたいです。
なぜメディアは結婚の経済的リスクを説明しないのでしょうか?
それは結婚の経済的恩恵を受ける層がメインの視聴者層で、結婚の経済的リスクを負う層はあまりテレビを視ない層だからです。
そこで、本稿では結婚契約における経済的リスクを婚姻費用の点から解説していきます。
本稿のターゲットとするメイン読者層は次の人たちです。
今現在結婚を考えている人のうち、
- 大企業・公務員・有資格業等収入が安定した職に就いている人
- 将来マイホームを持ちたい人
- 将来子供が欲しい人
- 生まれ持っての資産家でない人
理論的には女性もあてはまる人がいるでしょうが、基本的には男性向けの論稿です。
第1回 「結婚とは年収の高い方が低い方に扶助義務を負う契約である」
目次
1.結婚=扶助義務契約
2.婚姻費用の基本
1.結婚=相互扶助義務契約
契約が締結されると必ず何らかの効力が発生します。例えば、売買契約を締結したら買主は売主に代金を支払う義務を負い、売主は買主に商品を引き渡す義務を負います。
結婚も契約なので、結婚契約が締結される(婚姻届が役所に受理される)と法的な効力が発生されます。民法には、結婚の効力として名字を統一するとか、未成年者は成年になった者として扱うなどの規定を置いています。その中で重要な規定が次の規定です。
民法752条
夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。
これが夫婦に相互扶助義務を負わせる規定です。ここで注意しなければならないのは、この扶助義務の内容は文字通りの「生活扶助義務」(最低限の生活の扶助を行う義務)ではなく、「生活保持義務」(自分の生活を保持するのと同程度の生活を保持させる義務)である点です。
年収1000万円の男性が、年収100万円の女性と結婚した場合、年収1000万円の夫は自分と同レベルの生活を妻にさせる義務を負うということです。
752条は相互扶助義務を定めた規定などといいますが、扶助義務は年収の高い方が年収の低い方に対して負うものなので、どちらかといえば一方的な片務義務であるといえます。
2.婚姻費用の基本
夫婦の扶助義務を受けて、夫婦は結婚生活に必要な費用を分担しなければなりません。夫婦に未成年の子供がいれば、その養育費も婚姻費用に含まれます。
婚姻費用の分担が顕在化するのは、夫婦が別居をしたときです。別居をしたとき、夫婦のうち収入の少ない方が、多い方に婚姻費用を請求することで婚姻費用という問題が表に出てくるのです。
婚姻費用の計算の仕方は基本的には決まっており、それを表にまとめたものを裁判所は公開しています。俗に算定表と呼ばれるものです。
婚姻費用が夫婦の話合いで決められない場合には、この算定表によって調停や審判で決められるのが一般的です(*1)。
例えば、年収1000万円の夫、年収100万円の妻の夫婦で、妻がともに幼稚園児の子2人と一緒に家を出て行ってしまった場合の婚姻費用を算定表から算出すると月額18~20万円になります。
この場合、夫は離婚が成立するまでの間、毎月18~20万円を妻に送金し続けなければなりません。ちなみに子供がいない場合は12~14万円です。子供がいるのといないのとで、それほど劇的な差はありませんね。
年収1000万円程度の月額手取りは、ボーナスを除いてだいたい40万円くらいですから、毎月18~20万円を支払い続けるのはとてつもない負担であるということがよくわかると思います。
住宅ローンなどくらべものにならない負担なのです。
*1
この算定表によって算出される数字はあくまで典型的な別居の場合を想定したものですので、特殊な事情がある場合には、別途計算がされることもあります。
次回予告:第2回「婚姻費用は真面目なサラリーマンほど損をする」
*婚姻費用に関するご質問はコメント欄にどうぞ