法廷日記

浦部孝法の日記です。時事問題、法律問題に関して適当に書いています。

パワハラは泣き寝入りするしかないのか?

パワハラの相談件数は年々増加傾向にあり、各種相談機関に寄せられる労働相談の中でもトップクラスの件数をほこっている。下の表は、労働局などに寄せられた労働相談のジャンルごとの件数であるが、いじめ・嫌がらせが解雇を上回る相談件数となっている。

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引用元:厚生労働省「平成25年度個別労働紛争解決制度施行状況」

しかし、被害にあった労働者側にとって、このパワハラ問題というのはいざ紛争となるとなかなか厄介な問題なのである。その理由は、以下の2点にある。

  1. パワハラの立証は困難
  2. 立証に成功しても認められる賠償額はわずか

パワハラの立証は困難

パワハラを問題にしたときに、加害者側が素直に認めてくれればそれほど問題はないのだが、多くの場合はシラを切られる。そうした場合、訴訟などでは被害者側がパワハラの事実を立証しなければならない。この立証というのがなかなか困難なのだ。

パワハラの言動を立証するための典型的な証拠は録音テープやメモ・日記、メール、第三者の証言等である。メールや録音などのわかりやすい証拠があればよいのだが、そういったケースは決して多くない。また、本人が書いたメモや日記などは信用性に疑問がもたれることもあり、会社側の人間である同僚などの証言を得られることは少ないだろう。

そして、加害者の言動の立証に成功したとしても、次にその言動を違法と評価してよいかというハードルがある。というのも、労働者がパワハラと感じる言動は、加害者からみれば叱咤激励する目的も少なからずあるものだからである。たとえ労働者が上司の言動に心理的負荷を受けパワハラだと感じても、裁判所からは正当な指導の範囲内と評価されてしまうことがあるのである。

また、パワハラ問題は迅速な紛争解決が望める労働審判制度が使いにくいという点でも問題がある。パワハラ事件には上記のような事実関係の争いという問題があるので、3回の期日中に結論を出さなければならない労働審判制度の利用は避けるべきと考えられている。パワハラ問題で労働審判を申立てると露骨に嫌がる態度をとる裁判官もいるくらいだ。そうすると、パワハラ問題を法的手続に乗せるには原則として訴訟(裁判)ということになるが、訴訟では解決までに1年以上かかることが想定され労働者の負担が大きい。

立証に成功しても認められる賠償額はわずか

さて、なんとか立証の問題と違法性の問題をクリアしたとしよう。たんまりと慰謝料がもらえるかといったらそんなことはない。パワハラに対する慰謝料というのは非常に安く、10万円もあれば結構いい方じゃないかというくらいだ。暴力でもふるわれていれば別だが、罵倒程度でのパワハラによる損害の額というのは低く評価されているというのが現状である。経済合理性だけを考えるならば、パワハラ単体での訴訟というのはあまりお勧めできるものではない。

こういったこともあり、不当解雇や残業代の未払いのような労働者側が勝ち筋で相当額の金銭的解決が見込める事件と異なり、事件の難易度に比べ実入りの少ないパワハラ事件を積極的に受任するという弁護士も少ないという問題もある。

パワハラに遭ったとき、会社のパワハラ上司の上司や外部通報窓口に相談しても解決ができない場合の最適解は、さっさとその会社から逃げる(辞める)ということになるのかもしれない。