法廷日記

浦部孝法の日記です。時事問題、法律問題に関して適当に書いています。

裁判傍聴レポート作成のための刑事裁判の流れ-レポート用引用条文・規則付

大学生なんかの教養科目あるいは基礎法学のレポート課題で裁判傍聴というのはよくあるみたいですね。レポートに適しているのは1回結審の刑事裁判なので、刑事裁判の法廷にはレポート作成のためにきたと思われる大学生グループをよくみかけます。

しかし、刑事裁判初見の大学生さんが裁判を傍聴しても、めまぐるしく進む手続を全然理解できないまま終わってしまうことが多いと思います。そこで、傍聴に適している裁判官単独の自白事件で1回結審の刑事裁判(非通訳事件)の流れを簡単に解説していきたいと思います。この手続の流れをレポートに反映できれば特A間違いないでしょう。法学系の授業なら、条文や規則も引用しておけば完璧です。以下刑事訴訟法は「法」、刑事訴訟規則は「規則」と略します。

1.開廷

検察官、被告人(刑事裁判にかけられる人)、弁護人のスタンバイができ、時間がくれば裁判官が入ってきます。まれに裁判官が既にきていて被告人まちのときもあります。

被告人の横に制服を着たいかついおっさんが座っている場合は身柄事件(被告人が留置場か拘置所に勾留されている事件)、おっさんがいない場合は在宅事件(最初から勾留されていないか、保釈されている事件)です。

裁判官が入ってきたら、裁判官の下らへんに座っている人(裁判所書記官といいます)が「ご起立ください。」というので、全員起立・礼します。

早速裁判官が「開廷します。被告人は証言台の前に立ってください。」と言います。冒頭手続の始まりです。

2.冒頭手続

まず、裁判官が被告人が人違いでないか確認します。この手続を人定質問(規則196条)といいます。裁判官が聞く内容は、氏名、生年月日、本籍、住居、職業です。「名前はなんといいますか?」「生年月日はいつですか?」「本籍はどこですか?」等と淡々と聞いて行きます。

人定質問が終われば起訴状朗読(法291条1項)です。起訴状には公訴事実として、裁判で審判対象となる事実が書かれています。裁判官が被告人に、起訴状を受け取っているか確認した後、検察官が起訴状を読み上げます。いわゆる5W1Hが書かれている部分なので、レポートを書く人は必死でメモをとりましょう。罪名や罰条なども読み上げられるのでメモを取り忘れないように。

起訴状朗読が終わった後、裁判官から被告人に対し、黙秘権及びその他の権利についての説明をします(法291条3項、規則197条)。この説明は裁判官によって多少異なりますが概ね以下のとおりです。

「あなたには、黙秘権があります。あなたは、終始沈黙することもできますし、個々の質問に対し発言を拒んだり特定の質問にだけ答えることもできます。もっとも、あなたが発言したことは、あなたにとって有利な証拠にも不利な証拠にもなります。発言する場合は、注意して発言するようにして下さい。」

黙秘権等の説明が終わったら、事件についての意見陳述です(法291条3項)。罪状認否ともいいます。裁判官が被告人に、「検察官がさきほど読み上げた事実に間違いはありますか?」と尋ねます。

自白事件であれば、被告人は「間違いありません。」と答えます。被告人が答えた後は、裁判官は弁護人の意見を聞きます。自白事件であれば、弁護人は「被告人と同様です。」と答えることが多いです。

ここまでが冒頭手続です。冒頭手続が終わると被告人はいったん席に戻ります。

3.証拠調べ手続

証拠調べ手続では、検察官立証と被告人(弁護人)立証が行われ、まずは検察官立証が先行してなされます。

まず、検察官は冒頭陳述(法296条)を行います。冒頭陳述は、検察官が証拠によって証明しようとする事実を陳述するものです。具体的には、被告人の身上・経歴、前科の有無、犯行動機・態様、犯行後の状況などについて陳述します。この冒頭陳述は弁護人もすることができますが(規則198条)、裁判員裁判でない自白事件では通常行いません。

検察官が冒頭陳述を読み上げたら、その流れで「以上の事実を証明するため、証拠等関係カード記載の証拠の取り調べを請求します。」と言います。しれっと言いますので傍聴人は流しがちですが、証拠調請求という手続が行われています。

検察官から証拠調請求がなされると、裁判官は証拠調請求に対する意見を弁護人に求めます(規則190条2項)。

弁護人は、検察官が請求した証拠を証拠として採用することに異議がなければ、「すべて同意します。」といいます。自白事件でも「甲○号証の何行目については不同意」などと一部不同意とされる場合があります。ここは説明すると長くなるので、刑訴法の教科書に説明を譲ります。

証拠意見がなされた後、裁判官は証拠決定をします(規則190条1項)。弁護人が同意をすれば、通常はすべての証拠の採用決定がなされます。

証拠の採用決定がされれば、検察官は証拠書類(被害届、実況見分調書、捜査報告書、供述録取書等)について説明します。証拠書類は朗読するのが刑訴法の原則ですが(法305条)、全部朗読していたら時間がかかりますので、通常は要旨の告知(規則203条の2第1項)といって要約した内容の読み上げだけをします。もし証拠物(凶器、覚せい剤等)があれば、展示(法306条)をします。自白事件であれば、検察官側から証人が出てくることはありません。

検察官立証が終われば、被告人側の立証が行われます。自白事件であれば、情状に関する証拠(反省文、示談書、嘆願書、謝罪文、贖罪寄付の証明書等)が証拠調請求されます。また、情状証人が請求されることもあります。これらの請求に対しては、さきほどと同様、検察官が同意・不同意の意見を述べます。証人の請求に対する意見は特に反対してなければ「しかるべく。」(採否は裁判所にお任せしますという意味)と答えます。

弁護人請求証拠の証拠決定がなされれば、弁護人が証拠の内容について簡単に説明します。

情状証人がいる場合は、証人の宣誓(規則118条)、偽証の警告(規則120条)がなされた後証人尋問がなされます。自白事件であれば、証人には、被告人の人柄や今後の監督の仕方などについて聞かれます。

ここまで終われば、次に被告人質問といって、被告人への質問が弁護人・検察官・裁判官の順で行われます。一番のみどころはここですね。

4.弁論手続(論告・弁論)

被告人質問まで終われば、論告と弁論です。

論告は検察官が行うもので、検察官が事件に対する意見を述べ、求刑(「懲役1年」等)をします。求刑は論告の終盤で言いますのでメモをしっかりしておきましょう。それに対し、弁護人も事件に対する意見を述べます。これが弁論です。

5.最終陳述

最後に被告人に意見を述べる機会が与えられます。通常は、一言「反省しています。もうしません。」などといって終わります。

これで、審理は終了して結審となります。最後に判決期日が指定されてその日は終了です。レポートで判決の傍聴まで求められている場合は、きちんと判決の日付をメモしておきましょう。

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裁判所に行ってみよう-初心者向け傍聴マニュアル - 法廷日記