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法廷日記

浦部孝法の日記です。時事問題、法律問題に関して適当に書いています。

なぜ若者はブラック企業にしがみつくのか

どうでもいい日記 仕事

ブラック企業大賞2014などというものが、9月6日決定されたそうだ。同大賞はブラック企業実行委員会とかいう私的な団体が主催しており、ネット投票などをもとに大賞を決定するらしい。

同大賞にノミネートされている企業はいずれもメジャーな大企業ばかりだが、はっきしいってここには載っていない地方の中小企業の方がよっぽどブラック率は高いと思う。また、労基法を形式的にはしっかり守っている大手自動車メーカーの期間工などの方もよっぽど非人道的な扱いを受けているかもしれない。そういったことも考えると、僕はただメジャーな企業をたたくことだけが目的のようなブラック企業大賞のようなイベントには反対的立場である。

そもそもブラック企業とはなんなのか。一般的には、労基法などの労働法規を遵守しない企業という意味で使われていることが多いだろう。もっとも、例えば毎日4時間分の残業代が未払いだが年収1000万円の企業をブラックということは少ないだろう。結局は、長時間労働低賃金かつ労働法違反というものがブラックと呼ばれるのではないか。

ブラック企業の問題が提起された際、僕としては「そんな会社辞めればいいではないか?」という風に思うのだが、当の当事者たちはそうは思わないようである。むしろ、会社に対し労基法の遵守や待遇改善を求める方向に走りがちである。労働組合や労働弁護団のような立場の人間が企業側の改善を求めるは理解できるのだが、当事者である労働者が改善を求めてまで会社にしがみつく理由はよくわからない。おかしな女に捕まったらさっさとリリースするのと同じように、おかしな企業に入ってしまったらさっさと辞めてしまうのが個人的利益を考えれば合理的な判断であろう。

それでは、どうして若者はブラック企業を辞めないで、そこにしがみついてしまうのだろうか。他に勤め先がないというのも考えられなくはないが、これはメインな理由ではないだろう。そもそもブラック企業というのは待遇が極端に悪いところであるから、そこと同程度以上の待遇の職場ならくさるほどあると考えられる。どうしても職が見つからず食っていけないなら一時的に生活保護を受けるという手段だってある。他に仕事がないというのは、今の時代においてはもはや理由にならない。

僕は若者がブラック企業にしがみついてしまう理由として、一貫性の原則という人の心理的特性が影響しているものだと考えている。ブラック企業の経営者たちは、意識的にか、あるいは無意識的にこの心理学的テクニックを利用して若者をしばりつけているのではないか。

一貫性の原則とは、自分の行動を一貫したものにしたい、あるいは、自分が一貫している人であると他人に見られたいという人の欲求である。人は、ひとたび特定の立場にコミットメントしてしまうと、その後はその決定に固執してしまう習性を持っている。特に、最初のコミットメントが自分が行動するものだったり相当の努力を要するものであれば、より最初の決定に固執しがちになってしまう。

みなさんは、ある餃子チェーンの厳しすぎる研修がいっとき話題になったのを覚えているだろうか。はたからみたら頭がおかしいんじゃないかというような厳しい研修が行われているのがテレビで特集され、世間からのバッシングを受けたものである。このような新人いじめまがいの厳しい研修は、割と世間では浸透してしまっている。それは、このような新人いじめには愛社精神を高める上で非常に重要な効果があるからである。

一貫性の原則は、最初のコミットメントに多大な労力、困難、苦痛を投じれば投じるほど影響力を増して働くようになる。難関大学に楽々に受かった人よりも、浪人のすえなんとか難関大学に入れたような小物の方が学歴を自慢するようになるのはそのためである。人は、自分が苦労して手に入れたものの価値を否定したくないのである。

新人いじめは、一貫性の原則を応用したものである。すなわち過酷な苦痛を労働者にあたえることでそれを乗り越えた労働者に所属組織に対して感じる価値を高める効果をもたらす。ブラック企業などで日常的に行われている長時間労働やパワハラなども、むしろそれを乗り切ってしまった人に対してはブラック企業への愛着をもたらしてしまうのである。軍隊なんかは、給料が高いのをおいておけば、ブラック企業そのものなわけだが、軍隊出身の人が自分が軍人であることに誇りを持っているのは、苦しい試練を乗り越えてきたからである。

運よく最初の数か月くらいの試練を乗り切れずに辞めてしまった人はよいのだが、不幸にもそれを乗り切ってしまった人たちはかえってブラック企業に愛着をもってしまって、離れられなくなってしまうのである。だからこそ、彼らは会社を辞めるという合理的な判断ができなくなり、周りがなんといおうとも会社にしがみついてしまうのである。企業経営者は、この心理学的テクニックを知ってか知らずかはわかならいが、うまく利用して社員をとどめることができてきた。

この一貫性の原則によれば、真面目で忍耐強い若者ほどブラック企業の罠にはまってしまう。若者がブラック企業にしがみついてしまうのは、このような巧みな心理学の利用にあるものだと僕は考える。