法廷日記

浦部孝法の日記です。時事問題、法律問題に関して適当に書いています。

相次ぐ値下げ・無料化、弁護士会の迷走、本当の目的は?

弁護士会の主催する法律相談の値下げ・無料化が相次いでいる。

2013年には、札幌弁護士会が法律相談センターの法律相談料を全面無料化した。

札幌弁護士会法律相談センター相談料全面無料化10月1日スタートのご案内

また、今月から千葉県弁護士会が法律相談センターの法律相談料をこれまでの5000円から2000円に値下げした。

千葉)法律相談料を値下げ 県弁護士会「地元を使って」:朝日新聞デジタル

他には、愛知県弁護士会も今月から離婚相談については、法律相談料を試験的に無料化している。

弁護士会の運営する相談センターとは?

そもそも弁護士会の運営する法律相談センターについてよく知らない人もいると思われるので、簡単に解説しておこう。

都道府県の弁護士会は、法律相談センターと称し法律相談サービスを提供する施設を運営している。相談担当の弁護士は、担当名簿に応募した弁護士会所属の弁護士から、相談センターが担当日を割り振って相談にあたらせる。

なお、相談センターの運営費は、各都道府県の弁護士会に所属する弁護士の会費から支払われている。

値下げ・無料化は意味がない

さて、各弁護士会は、相談件数を増やすために相談料の値下げ・無料化を行っているようである。相談件数を増やすことは、弁護士の仕事が減っていることへの対処のつもりであろう。

確かに、相談料の値下げ・無料化により、一時的には相談件数は増えるかもしれない。

しかし、相談料の値下げ・無料化によって弁護士の仕事を増やすことはできないであろう。

経営的にみれば、料金の値下げは、価格感受性の高い消費者の消費を促すために行うものである。

映画館の料金で、学生の料金が割安になっていたり、レディースデーなどがあるのは、映画のチケット料金に対する価格感受性が高い学生や女性の来館を促すものである。可処分所得の少ない学生や女性は、2000円ではあまり映画館に来ないが、1500円なり1000円に割引されると多く来れるようになる。他方、可処分所得の多い男性社会人は価格感受性が低く、映画料金が2000円であっても、1500円であっても、来場者数にあまり変化はない。そのため、映画館は学生や女性にだけ割引の適用をしているのである。

これを法律相談についてみると、5000円の相談料では来ないが、2000円なり無料なら来るという層は、一般に高額と言われる弁護士費用を支払うことができないような低所得者層が圧倒的に多い。他方で、弁護士費用を支払える層は、相談料が5000円でも2000円でも相談に訪れる総量はたいして変化しない。

弁護士の経営としては、相談料だけでは当然食っていけず、具体的な事件の受任による着手金や成功報酬が必要となる。しかし、相談料の無料化で増えた相談者は、結局着手金を支払うことができないので、受任にはいたらない。

したがって、相談料を無料化しても、弁護士の仕事が増えることにはならないだろう。また、無料化により一時的に相談者が増えても、無料に対する需要を食い尽くした後は再び相談数は元の数字に近いところにおさまると考えられる。

弁護士会が具体的にどのような意図で値下げをしているのかは不明だが、戦略のない値下げほど害のあるものはないだろう。

弁護士会の本当の狙いは?

以上みたように、相談料を無料化しても弁護士の仕事が増えることはない。

そもそも法律相談センターは、当初は市民の弁護士へのアクセスを容易にするために設立されたものと思われるが、弁護士がこれだけ増員した今、弁護士会が法律相談センターを運営する意義は見いだせない。

ところで、弁護士会は、所属弁護士から巻き上げた豊富な資金力を下に、相談センターのテレビCMや電車のつり革広告を頻繁に行っている。

広告による相談者の獲得という面からみると、小規模経営の法律事務所では、弁護士会の相談センターに対抗することは困難である。

そのため、自力で相談者を獲得できない弁護士は、相談センターの割り当てに頼らざるを得ない面がでてくるであろう。

そして、法律相談の割り当てを行うのは弁護士会であるから、受任ルートを弁護士会に依存しているような弁護士は弁護士会には逆らえなくなる構造ができあがる。

弁護士会は、相談センターを活性化させることで、所属弁護士に対する弁護士会の権威を高めようとしているのではないか。