法廷日記

浦部孝法の日記です。時事問題、法律問題に関して適当に書いています。

裁判官に感謝の手紙を送ってはいけない理由

ツイッター上で、袴田事件について袴田氏の拘置の執行停止を決定した裁判長に感謝の手紙を送ることについて物議が醸し出されています。

議論の発端となったのはジャーナリストの江川紹子氏のこのツイート

 

 

江川氏が、裁判長に感謝の葉書を出すことを「素晴らしい提案!」と称賛したことに対し、弁護士のほりぐち改二(ツイッター名)氏が、次のように反応しています。

 

 

ほりぐち氏が、江川氏に対して批判的になっているのは、裁判官への感謝の手紙が司法制度のあり方を脅かすおそれがあるからだと思われます。

そもそも裁判が公正に行われ人権の保障が確保されるためには、事件を担当する裁判官がいかなる外部からの圧力や干渉を受けないことが保証されていないといけません。憲法76条3項は「すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。」と定め、司法権の独立の原則を定めています。

この司法権の独立の原則があるからこそ、強制的な解決を示す裁判に対する信頼が生まれます。

もし、裁判の結果に対して、感謝の手紙が送られることが慣例化されてしまうと、裁判官があたかも世論に迎合的な判断を下したと見られるおそれがあり、裁判の「公正らしさ」が失われ、司法に対する信頼が揺らいでしまいます。

裁判官は、自分の判断に対して、感謝の手紙・非難の手紙いずれがくると予想したとしても、自分の判断を曲げないと思います。しかし、国民の目から裁判をみたとき、特に世間では少数派に属する側の立場からすると、世間の多数派に合う裁判がなされた際に、「裁判官が世間の批判をおそれ、感謝されるような判断をしたのではないか?」と疑いを持たれてしまうおそれがあります。このような疑念が膨らんで司法への信頼が揺らいでしまうと、国民は裁判による解決に失望し、自力救済の方へ走ってしまいかねません。

ちょっとオーバーなんじゃないかという意見もあろうかと思いますが、それほど司法の独立というものは、厳格に守られるべきものと考えられているのです。