法廷日記

浦部孝法の日記です。時事問題、法律問題に関して適当に書いています。

グリーの社長は3000万円払わされるのか!?

ネットのニュースで、グリーの社長が元交際相手の女性から「やむなく中絶させられた」として3000万円の損害賠償請求訴訟をおこされていることが話題になっている。

まずは、報道内容を確認してみよう。

 ソーシャルゲーム事業、ソーシャルメディア事業等を主な目的とするグリー株式会社の田中良和社長が、東京都内に住む20代の一般女性(A子さん)から、「やむなく中絶させられた」と3000万円の損害賠償を要求されていることが〈平成26年(ワ)3989号〉、さくらフィナンシャルニュースの取材でわかった。

訴状によると、2人は、2010年9月頃、友人の誕生日パーティーで知り合い、翌年1月から交際を開始したという。転機が訪れたのは、2012年3月。A子さんがそれまで勤務していた会社を退社したのを機に、当時、田中社長が居を構えていた、港区高輪のマンションで半同棲生活をスタートさせたという。

その年の8月、一度A子さんは実家に戻ると伝えたが、「(家に)帰ると原告が待っていてくれるのが嬉しい」と田中社長に引き留められ、新たにA子さんのために借りたという港区高輪のマンションに引っ越すことになる。

田中社長が、避妊せずに、性行為に及んだのは、この直後の10月頃。「自分との交際は結婚を見据えたもの」と思ったA子さんは受け入れてしまい、翌月には妊娠が発覚。

ところが、妊娠の事実を伝えた途端、田中社長の態度は一変したという。11月21日にA子さん宅を訪れた田中社長は、

「産んでも誰も幸せにならない」

「(出産は)誰のためにもならない」

と、暗に中絶するよう迫り、帰り際、玄関先に中絶費用と思われる30万円を置いて行ったそうだ。ちなみに、田中社長の住まいは、赤坂のアークヒルズエグゼクティブタワーにある。

その後、田中社長の冷淡な態度は変わらず、連絡すら途絶えるようになったという。

間もなくして、田中社長は個人的な秘書が交渉の代理人として現れ、「話し合うつもりはない」、「認知をするつもりもない」などと伝えられたことから、A子さんはやむなく中絶手術を選択。

交際期間は、1年6ヶ月にわたり、一連の田中社長から受けた精神的・肉体的苦痛ははかりしれないとして、A子さんは、今年2月に提訴するに至った。

引用元:さくらフィナンシャルニュース 

まず最初に確認しておかなければならないのは、御存知の通り、男女のいざこざは2倍にも3倍にも盛って話されるのが通常であるということだ。報道内容は、訴状を元にしているものと思われるが、訴状は所詮一方当事者の言い分が書いてあるにすぎず、その内容が真実であるとは限らない。しかし、グリーの社長の言い分がまだ出てない以上、我々は元交際相手の女性(以下「元カノ」という。)の言い分からこのニュースを論評せざるを得ない。

請求の中身はなんだ!?

本件では、損害賠償請求の額が3000万円とかなり高額になっている。この内訳はどうなっているのだろうか。

訴状を見ていないのでなんともいえないが、この手の訴訟で考えられる請求の内訳としては、①婚約破棄の慰謝料(または、結婚すると誤信させ交際関係を続けさせられたことに対する慰謝料)、②婚約破棄による逸失利益、③中絶の慰謝料・費用、④弁護士費用(認容額の1割程度)といったものが考えられる。

②の婚約破棄による逸失利益とは、結婚に向けて仕事を退職した場合に、退職しなかったら得られるはずだった給料などである。本件では、元カノが退職した時期は同棲が本格化するより前であるので、これは含まれていないと考えられる。

そこで、本件で争いとなるのは①、③、④になるだろうと推測できる。

婚約は成立していたのか!?

婚約の不当破棄をした者に対して、婚約者は婚約の債務不履行または不法行為に基づく損害賠償請求をすることができる。したがって、グリー社長と元カノの間に婚約が成立していたかが争点となる。

婚約は、男女間に将来結婚しようという合意があれば成立する。ただし、そのような合意の有無は外部からはよくわからないので、結婚式場の予約、婚約指輪の授受、結納の有無等の客観的な事情から婚約があったかどうかを認定していくの一般的だ。

本件報道によると、明確な婚約合意については元カノは主張していないようにみえる。今回、元カノが主張していると考えられるのは

  • 半同棲生活→同棲用の住居(?)の用意
  • 交際1年6ヶ月
  • 「(家に)帰ると原告が待っていてくれるのが嬉しい」と実家に戻るのをグリー社長に引き留められた
  • 中田氏(?)

である。

報道だけでは、事実関係がよくわからないが、今回は、結納や結婚式場の予約などの婚約を推認させるような決定的な事実はない。また、妊娠後に態度が変わったということは、そもそもグリー社長は結婚する気はなかったといえそうだ。婚約が認められるか否かは、同棲用の住居(?)を用意した経緯(2人のやり取り)、避妊せずの性交に至った経緯(平成23年10月までは避妊していたのか、中田氏なのか外田氏なのか)にかかってくると思われる。

もっとも、婚約の成立が認められ、婚約の不当破棄といえるような場合でも、それにより認められる慰謝料はせいぜい30~500万円程度であろう。

なお、グリー社長にその気がないのに、元カノの方が婚約していると思い込んでいた場合でも、グリー社長がそれっぽい態度をとっていた場合は、同様に慰謝料請求が認められる場合がある。

中絶の強要!?

報道にあるような内容だけで、グリー社長が中絶を強要したとするのは困難であろう。グリー社長の中絶の求めに対し、元カノが自由意思で承諾したということになりそうである。ただし、妊娠後に一方的に連絡を遮断したことなどが事実であれば、中絶の決断に至る苦悩など元カノが負うことになる精神的・身体的な苦痛の軽減・解消義務の履行を果たしていないとして損害賠償義務を負うと考えられる。この場合、性交~妊娠はカップルの共同行為であるから、仮に精神的苦痛や中絶費用などとして200万円の損害が元カノに発生するなら200万円×50%から既払いの中絶費用30万円を引いた70万円の損害賠償となる。

3000万円は多すぎ

以上みてきたところからすると、仮にこの訴訟でグリー社長が負けたとしても損害賠償額はせいぜい数百万円と考えられるので、3000万円という額は過大と考えられる。ちなみに、3000万円の請求の場合、訴状に貼る印紙代だけでも11万円であり、一般的な弁護士が採用している報酬規程によると着手金は159万円にもなる(通常はここから減額すると思われる)。

これについては、元カノ側は高額での和解を狙っているのかもしれないし、もしかすると報道には出ていない事実が隠されているのかもしれない。続報を待とう。

 

参考文献・裁判例

婚約の成立について:二宮周平著「家族法第4版」新世社139-142頁

妊娠中絶による負担の共同:東京高判平成21年10月15日判例時報2108号57頁